「……それじゃあ、また新しいチームになりますが、皆さん頑張りましょ~」

 部長の長い乾杯の音頭のあと、小気味よくグラスがぶつかる音がする。
 今日は、寿退社で抜けたあとに来た社員の歓迎会だ。
 飲み会自体は嫌いじゃないが、前回睦合くんといろいろ会ったことを思い出すきっかけにもなり、何だか気持ちが晴れなかった。

「足田さん、最近お疲れですか? 元気ないような……」

 自分では気づかない変化を、赤沼さんにも心配されて申し訳ない気持ちになる。
 原因はわかっている。睦合くんとまったく話すことがなくなったからだ。
 思えばこれまで、給湯室などで彼と会話するのが日課のようになっていて、軽い息抜きになっていた。彼が懐いてくれるからなのか、些細な時間は私にとっても癒しで、それがなくなったものだから疲れが出てきたのかもしれない。
 たぶんそれは、恋愛的な感情ではなく、愛犬を愛でるのに似た感情だと思いたいのだが……。

「ストレスはお酒で流さなきゃだね!」
「あはは、足田さんらしいですね。私も付き合いますよ」

 赤沼さんと個人的に乾杯をかわし、ビールをぐっと煽る。
 今日はこの間のような失態はしない。それに、私が酔っぱらったって、襲ってくるような人もいないんだから。
 ほどほどにと言い聞かせながらお酒を嗜んでいると、隣の卓から聞きなれない猫なで声が聞こえてきた。
 視線をうつせば、今回新しく入ってきた女性社員の野中(のなか)さんを中心に、睦合くんが数名に囲まれている。
 野中さんはたしか中途入社で、可愛らしい容姿で男性社員から人気があるらしい。少々したたかなところがあり、女性社員からの反応はイマイチらしいけれど。

「ほら、たぶん例の件ですよ。睦合くん、最近モテてるみたいですよ?」

 赤沼さんがみんなに聞こえないように、こそっと耳打ちをする。
 聞けばここ最近、玉の輿を狙ってなのか、睦合くんに言い寄る女性社員が増えているとのことだった。

「特にあの野中さんって子、前のチームで私の同期と付き合ってたらしいんですよ。すぐ別れちゃったみたいですけど」
「え、そうなの?」

 どうやら人気の男性社員を狙ってはとっかえひっかえしているらしく、既に社内で三人も付き合っていたとか。
 話だけ聞けばあまり良い印象はないが、恋愛経験のない私からすれば、ポテンシャルの高さに感心してしまう。赤沼さんは、あまり良い印象を持っていないみたいだけれど。

「次の狙いは睦合くんって噂ですし。狙った獲物は逃がさない系女子らしいですよ」
「そ、そうなんだ」
「なんかあからさまで嫌になっちゃいますよね。前までみんな避けてたのに。まあ私も彼のこと悪く言ってたから、人のこと言えないですけど」
「うーん、そうだねえ……」

 赤沼さんは未だ睦合くんには興味がないのか、お酒を飲みながらつまみをパクパクと口へ運んでいる。
 私は相槌を打ち、女子社員たちに囲まれる彼を横目に見ることしかできなかった。