パーティーはほんの数時間の出来事だったけれど、永遠に感じられ、着替えのために戻った部屋でベッドに腰を下ろした。
「き、緊張した……」
今日の主役は睦合くんのお兄さんだったこともあり、幸い彼の親族とは軽く挨拶を交わすだけで済んだ。
親会社の社長ともなればどんな方なのかと恐縮したけれど、意外にも笑顔を絶やさない穏やかな方で、おかげで緊張が少しだけほぐれた。
睦合くんはというと、会社では見せないような社交的な笑みを浮かべていて、やっぱり今日の彼はまったくの別人のようだった。
「今日はありがとうございました」
「全然、私は何も……。でも、睦合くんってすごい人なんだね、びっくりした。あ、もちろん誰にも言わないから安心して」
「はい、美佳さんなら信頼できるので」
真っ直ぐな言葉に、上司として慕ってくれてるのだろうと感じ、くすぐったい気持ちになる。
照れくささを隠すように着替えを取りに行こうと立ち上がると、その手を引かれ、彼に背を向ける形になった。
「どこ行くんですか?」
「えっと着替えに……ドレス、皴になっちゃったら悪いから」
「いいですよ。このドレス、美佳さんの為に買ったので」
「え?」
「この色似合うかなって。さっきは言えなかったけど、すごく綺麗です」
「っ……」
耳元で囁かれ、背中にピリピリとしたものが走る。
甘ったるい雰囲気から逃げようとすると、ゆっくりと後ろのファスナーが下ろされた。
「あっ……」
「着替えるなら、手伝います」
開いた背中に、するりと大きな掌が入り込む。
そのままくびれをなぞられると、ピクリと体が反応して、彼の手を掴んだ。
「だ、大丈夫だから! 睦合くん、また酔ってる? さっきお酒飲んだから……」
「酔ってないですよ。そもそも僕、お酒飲んでもあまり酔えないんで」
「……?」
驚いて顔だけ振り返れば、表情は至って冷静で、とくに嘘をついてるようにも思えない。
どうやら体質なのか、いくら飲んでも酔えないほどお酒が強いのだとか。
「じゃあこの間は……」
私たちが、酔って体を重ねた日。彼も相当酔っていると思っていたけれど……。
「僕は全部覚えてますよ。次の日は誤魔化しましたけど、べつに酔った勢いで抱いたわけじゃないですから」
「な、なんで」
「理由聞くなんて、野暮じゃないですか」
「言わなきゃわからない……」
この先の言葉を聞きたいような、聞きたくないような。
けれど、睦合くんの本心が分からなくて尋ねると、彼は困ったようにため息をついた。