「心臓に悪い……」
「どうしてですか?」
「だって私今日睦合くんのパートナーとして来てる身でしょ? 誰かに見られたら……あ……」

 それ以前に、今日は彼の親族と顔を合わせる可能性が高いはず。
 睦合くんはまたもや私の心を読んで、「適当に合わせておいてください」と告げた。

「適当にって……」
「今日美佳さんを連れて来たのは、見合いを断るためなので」
「見合い?」
「兄が婚約したもんだから、次は僕に矛先が向いてるんですよ。ひとまず相手がいるとわかれば、親もしばらくは何も言ってこないだろうし」
「えっ、尚更その相手が私でよかったの……?」

 息子がこんな年の離れた女性を連れてきたら、心配するのではないだろうか。

「大丈夫です。うちも、母親の方がわりと年上なので」
「そ、そうなんだ……」

 いや、それは大丈夫なのか……? 安堵したような、けれど複雑な気持ちがない交ぜだ。
 場違いな雰囲気に、居心地の悪さを感じていると、後ろから落ち着いた声で話しかけられる。

「おやおや、恭平くんじゃないか」
「叔父さん。お久しぶりです」

 振り返れば、彼の叔父さんと思われる男性が立っている。睦合くんと軽く挨拶を交わすと、叔父さんが私の方を見た。

「ああ、こちらパートナーの足田美佳さん」

 ごく自然に紹介され、自らも名前を告げて挨拶をすると、叔父さんは嬉しそうに微笑む。

「ほおべっぴんさんだね~。お兄さんの次は、恭平くんの婚約パーティーかな」
「そうですね、その時はよろしくお願いします」

 ええ……!?
 睦合くんが当たり前のように告げ、叔父さんが去っていく。

「ねえあんな適当なこと言って大丈夫なの……?」

 こっそり耳打ちしてみるも、彼は悪びれもなく「大丈夫ですよ」と頷く。

「でも……」

 なんだか嘘をついている罪悪感が拭えない。

「それなら、本当に付き合いますか?」
「え!?」
「……冗談ですよ。とりあえず今日はさっきみたいな感じで、よろしくお願いします」
「はい……」

 まったく、突然変な冗談を言うのはやめてほしい。
 睦合くんは「僕に任せて」と言ってくれたけれど、内心は緊張でどうにかなりそうなほど。彼の誘いを受けてしまった以上はどうすることもできず、心臓の音をできるだけ落ち着かせるように、意識を集中させた。