お茶会の時間である。
ティアはワンピースに着替え、席に着いていた。テーブルには色とりどりのお菓子が並び、子供たちはキャイキャイと騒いでいる。
クレスと目が合わぬよう、俯いていた。
「では、今日のお茶係はティアに頼みましょう」
司祭が言う。
「え!? 私?」
ティアは驚く。
お茶係は、この一ヶ月間良い子で過ごした子供に与えられる名誉だからだ。
謹慎中だったティアは自分が選ばれることはないと思っていた。
「ティアねーだ!」
「いいなぁ。ティアお姉ちゃん。私もクレス様にお茶をあげたかったー!」
子供たちの声に送られながら、ティアはポットの置かれたワゴンまで行く。
そしてポットを持ち上げた。
ん? これってなんか嫌な感じがする……。
不安定な魔力がポットの中に渦巻いている。
でも、乙女の楽園でそんなことあり得ないわよね?
確認するようにティアは軽くポットを揺らしてみた。
やはり違和感がある。
ティアは思わず司祭を見た。
司祭はスッと目を逸らす。
クレスを見てみると、ただただ普通に微笑んでいる。
なにか変。まさか、司祭様がなにか入れたの? このまま注いで歩いたら、このお茶を子供たちも飲むことになるのに?
どうしよう、中に変なものが入ってるって言ったほうが良いのかな?
でも、そんなことがクレス様に知られたら、司祭様はどうなるのかしら?
乙女の楽園は? 子供たちは?
ティアはグルグルと考える。
「どうしたのですか? ティア」
クレスに優しく問われ、ティアは動揺する。
「あ、あ、なんでも、ありません……」
「なら、早くお茶を注いでください」
クレスにせかされ、ティアは焦る。
どうしよう。どうしたら良いの? わからない! わからないから!!
ティアは持っていたポットに神聖力を注いだ。
ホンワリと薄いピンク色の光りがポットを包み込む。
こっそりと処理しようと思っていたのに、思ったより神聖力が強く出てしまった。
わぁ! やってしまった! 紅蓮の希望と同化してから神聖力が強まったのを忘れてた!
ティアは焦るがどうにもならない。
「ティアねーのおてて、ひかった!」
「聖女様みたい!」
子供たちは大興奮だ。
「そんなはずないよ、勘違いだよ」
司祭は驚き言葉を失う。
聖女の奇跡を目の当たりにして、驚いたのだ。
やっぱり、ティアは聖女として覚醒している!! しかも、魔法陣も詠唱も使わずにこれだけのことが出来るなんて……大聖女になる資質さえある! 見つけた! 私が見つけた! 私の宝石!
クレスは確信した。
「ティア……」
クレスはティアに呼びかけた。
その紫の瞳は、熱に浮かされたように潤んでいる。
その色っぽい視線にティアは思わずギョッとする。
「は、はい……。クレス様……」
「まずは私にお茶を注いでください」
「……はい」
ティアはクレスのカップにお茶を注ぎ、耳打ちする。
浄化したとは言え不安だった。出来たら飲んでほしくない。
「あの、もしかしたら、美味しくないかも……」
「ティアが浄化してくださいましたね」
「っ気がついて……」
クレスは穏やかに笑い、カップのお茶をクイと飲んだ。
「ああ、甘い。大丈夫ですよ、ティア。あなたの浄化は成功しました。独学でここまでとは……」
そういうと、ティアのピンクの髪をひとすくい掴(つか)み毛先にキスをした。
部屋中が響(どよ)めく。子供たちが黄色い歓声を上げる。
「!? !? !?」
ティアが動転して目を白黒させると、クレスは愛おしいものでも見るような目をした。
「ティア、あなたは私の命の恩人です」
「い、いえ、そんな。命がどうとか、そんなものはいってなかったと思います!」
「そこまでわかるのですね。素晴らしい」
クレスはうっとりとしてティアを見つめた。
ティアはしくじったと思い目を逸らす。
「ティア。私の聖女。早く私のもとにこられるよう、最善の努力をしましょう。私が、王国最強の聖女にしてあげます」
クレスの言葉に、ティアはブンブンと手を振った。
「そんな、無理です。私、無理です!」
だって、私はドラゴンの相棒になった悪女なんですから!!
ティアは思うが、さすがにこの状況で言えるわけもなかった。
ティアは助けを求めて司祭を見た。すると、司祭は冷たい顔でティアを見つめていた。
突き放すような表情にティアはゾッとする。
司祭様……怒ってる……。
ティアは慌てて目を逸らした。
周囲の子供たちはパチパチと拍手をする。
「ティアねー、すごい!」
「ティア姉ちゃん、さすがだね!」
ティアは孤立無援だった。
がっくりと肩を落とし、愛想笑いを浮かべた。