「だったら何で……
母さん、夜明けの珈琲は旨かった
かい?」
「え!?な・な・な・何!?」
こんな時だけ夫婦揃って同じリアクシ
ョンするんだな。
「もうわかってるよ。
俺を捜してたなんて嘘だろ。
それから――――暁。」
「え!?な・な・な・何!?」
「お前、兄が誘拐されてるってい
うのに瑞希ちゃんちにお泊まりし
てたんだってな?」
顔こそ似ていないが、一緒にクセ毛
同盟を結んだ仲だったのに…
いつから歯車が狂ってしまったん
だろう…
「いや俺は―――知らなかったん
だよ。
さっき山田さんちの前で初めて聞
かされたんだ。
兄貴が誘拐されてた、って。
俺が瑞希んちに向かってる最中に
犯人からの電話があったらしいよ
?」
意外な答えに茂男は戸惑う。
「じゃあ…身代金から1万円抜いた
のは暁じゃなかったのか?」
「俺がそんな姑息な真似するかよ
!………父さんじゃないの?」
ジロリと父親を睨む暁。
「ば…馬鹿!
俺は10万円しか―――」
「まぁ!
あなた10万円盗ったの!?
さてはまた競馬ね?
どういう事か説明しなさい!」
「ずりぃよ!
俺にもわけてくれよ!」
耳を塞ぎたくなるような喧騒が、
茂男の理性を吹き飛ばす。
「いい加減にしてくれよ!!」
バシッとテーブルを叩く音が鳴り響き
、茂男は凄い剣幕で怒鳴った。