「あ、そうだ。
山田さんちに回覧板持って行かな
きゃ!」
エプロンを外し、いそいそと出て行
く母親。
こうなったら30分は話し込んで帰
らないだろう。
「父さん、話があるんだ。」
めずらしく真剣な表情の茂男を見
て、少し戸惑った様子の父親は、
キョトンとした顔で我が子を見た。
「あ、帰ってたのか?」
「ああ。――――父さん。
身代金の事なんだけど…」
そう切り出すと、急にドギマギし
始める父親。
「え!?な・な・な・何!?」
「俺さ、聞いてたんだ。犯人が電
話かけてる時。
確かに言ってたよ。30万って。」
「なんの事だか…」
「とぼけたって無駄だよ。
母さんも言ってた。
父さんは40万円って言ってたって
ね。
どういう訳か説明してくれないか
?」
父親は、困った時にやる癖…
頭をしきりに掻き毟る、という行
為を始めた。
これだけでも限りなく黒に近いが
、やはり本人の口から聞きたい。
何か言ってくれるのを、根気よく
待った。だが…
「お…俺は知らない!」
そう叫ぶと父親は、その場から逃
亡すべく、勢いよくリビングのドア
を開けた。
その時――――