「また新しい医療機器が入ったんだよ」
「つい最近入ったってやつ?」

「それそれ。この間の機器の使い方をようやくマスターしたと思ったら、マジかよ」
 日々勉強で一生新しいことを覚えていく職業だもんね。とはいえ追いつくのにあっぷあっぷ。

 クリーレンは、年間三万五千件以上の症例と千件以上の手術をおこなう全国でも有数の動物総合医療センター。

 CTやMRIとかの高額高性能の医療機器を揃えたり、機種によっては数千万円にもなる高額の医療機器もある。

 よく獣医師からは『壊すなよ、阿加ちゃんが一生働いても返せない借金背負うぞ』って冗談で脅される。
 
「凄いよね、クリーレン。どんどん高額な医療機は買えるし、やり手のエリート獣医師を次々にヘッドハンティングするための資金もある」
 
「難なく最先端の医療機器を取り揃えられるほどクリーレンは潤沢な資金があるんだよ」
 情報通のユリちゃんには恐れ入る。お金のことまで知っているんだ。

「理事長の見た目からすると、そういうこと出来ちゃう風に見えるかもね」

 体型はすらりとしていて、ふっさふさのロマンスグレーはどこか上品な雰囲気を漂わせちゃっているかも。

「スーツの袖口から高級時計が見えるとかネクタイや万年筆も高級とか。つか、もう爪楊枝さえ高級なんじゃって思うよね」

 ユリちゃんが勝手な想像をしてけらけら笑う。とても逞しい想像力だこと。

「大通り沿いにそびえ立つ八階建てのクリーレンを、都内の一等地で建てられる財力があるんだもんね。信憑性があるよね、高級爪楊枝」

 高級爪楊枝がユリちゃんにハマったみたい。

 理事長の品があるように見える外見と濁りのない穏やかな声質がより高貴な印象を与えるからか、客層はハイソな方々が九割を占める。

 理事長は動物好きの延長線上にお金がついてきただけで、別にお金儲けをしようとしたわけじゃないと思う。
 証拠に自分には、まったくお金をかけない無頓着な人だから。

 とにかく病院なり動物に関わることには惜しみなくお金を注ぐから、結果高級志向に見えるんだよ。

 理事長が高級志向と思われているからか、飼い主も飼い主で大切な我が子の治療に対して、金に糸目を付けずに治療を継続出来るほど経済力のあるお客さんで、ほぼ占めている。

 高額だと言われるときがあるけれど、それ相当に見合った対価だと納得できる層が残って通院している印象。

 たまに、いき過ぎて治療費が高いと怒鳴り散らすクレーマーがいるけれど、それは稀な人。

「どこにこんなにお金があるのかと思うほど、理事長の周りは景気がいい話ばかりだよね」
 ユリちゃんが羨ましそうな表情で斜め上を見上げている。

 数々の最新医療機の導入や、高スペックで腕利きのいい獣医を筆頭に多数在籍しているスタッフの人件費しかり。

 それに昼夜問わず救命のために働く労力、治療を施すため諸々にかかる膨大な費用しかり。

 数年前からは犬猫の保護にも力を入れているから、各地にセンターを所有している。

「殺処分を避けて少しでも引き取ってもらえたらいいね。理事長優しいよね」

「麻美菜はどんだけお人好しなの。ってか世間知らず。理事長の真の目的教えてあげる」
 さっきみたいな想像なのか確かな情報なのか、なにを言い出すのやら興味津々で言葉を待つ。