遠くで見るだけだけれど、色黒で髪の毛も真っ黒、くっきり二重の濃い顔、ツーブロックで見た目スポーツマンで華やかな雰囲気。

 噂では相当な遊び人で女性関係が派手とは耳に入ってきている。

 男性と関わりもなく色気もない、なんの面白みもない私には無縁も無縁。
 生まれ変わってもすれ違うことさえなさそうな先生。

「チャラい人なのか。私には免疫ないな」
「麻美菜は、チャラ限定じゃなくて男性全般に免疫ないじゃん」
 悪気がなくてはっきり言うユリちゃんの意見は合っているから、ぐうの音も出ない。

「人は外見で判断しちゃいけないねぇ」
 アイスコーヒーを飲むユリちゃんが、口もとで人差し指を軽く左右に振って唇から音を鳴らす。

 塔馬先生の華麗なる経歴は、英国王立獣医科大学大学院で腫瘍生物学博士号を取得。

「そして、英国王立獣医科大学小動物内科レジデント(研修医)修了だよ。それに」
 
「もうユリちゃん、そのへんでいい。院長はアメリカから、塔馬先生はイギリスから帰国した」
 高スペックの凄い人たちっていうことは分かった。

「最高の指導者に恵まれたんだからいいじゃん」

「指導者って耳障りはいいけど」
 アイスティーのグラスに浮かぶ氷をストローで軽く突っ付いて話を続けた。

「要は異動って若い看護師の品定めでしょ」
「品定めって、看護師はスーパーのリンゴかバナナか」
 語尾を伸ばしてからかうユリちゃんを放っておいて言葉を続ける。
 
「私たちにしてみれば、毎回の異動のたびに獣医のテストを受けてる」
「それテストだって獣医が言った?」
「私の想像。生き残りをかけた戦いだと思うの」

「大げさだなぁ。麻美菜は生真面目なんだよ、戦いとか重いわ。だから異動する前から、あれこれ考えて怖気付くのか」

「私なんか戦う前から生き残れないくらい影も形もない落ちこぼれ」 
「ホントの落ちこぼれが、この大病院のクリーレン様で一年も働けるわけないでしょ」
「そっかなぁ」
「そうだよ、麻美菜。出でよ勇者。やっと、いつもの笑顔になった」

 とにかく、なるようになる。あまり深く考えないでアバウトにさって結論でいいじゃんって、ユリちゃんが話をまとめた。

「それより聞いてよ」
 頭の回転が早いユリちゃんに、次の話題はなんだろうと返事の代わりに二度頷き、先を促す。