「緊急手術があれば夜中でも飛んで行きます。患者を心配するぐらい僕のことも心配してください」

 ソファーにゆったり座って、すっかりくつろいで自宅みたいな朝輝先生の態度は、葉夏先生の小言に慣れっこみたいで軽く受け流してまったく動じない。

「夜間、一件救急がありました」
 葉夏先生が朝輝先生に様子を聞いている。

「その後は幸いにも平和な夜でなにもなく、準備万端が裏目に出て迂闊にも休憩中に寝過ぎました」

「寝てばっかりいるから、そんなに背だけぐんぐん伸びていくのよ。そんなことより帰りなさいって」 

「もう眠くないっす」
「そういうんじゃなくて」
「僕たち家族っすよね?」
 子犬みたいな瞳で仰ぎ見る朝輝先生に葉夏先生の眉毛がみるみるうちに下がる。

「今日は誰とランチに行こうかな。ひとり暮らしだから、ここにいるほうが寂しくないっす」
「また、そうして母性本能をくすぐる。ランチしたら帰りなさいよ」
 
「はい」
「なにか様子がおかしい、あんたなにか隠してない?」
「いいえ」

「なによ、変よ、珍しくしおらしいわ」

「家でひとり膝を抱えて物思いに耽ることにします」
「どの口が言う、どうせまた課外活動でしょ。セッティングまでしてるんでしょ、毎度お疲れ様」

「おとといは大学時代の悪友と美人モデルと合コンでした」 
「抜けぬけと。お疲れ様は労いじゃなくて皮肉ったのよ」

「そうカリカリしないでください、眉間の皺が神社の鳥居みたいっすよ」

「あんたのそのきれいな可愛い顔を殴られたいの?」
「怒っても美人っすね。で、なんすか? 僕の顔をまじまじと見つめて」

「昔、同期が言ってた。女性に好きなタイプを聞くと優しくて誠実な人っていうけど、合コンとか行ったらチャラいやつがモテるって。それって矛盾してない?」

「なにを真顔で。僕らの合コンは男も女も後腐れなしのワンナイトを求めてますよ?」

「男子に免疫のない女子は恋愛感情をもってしまうパターンじゃない? 波島くんってサービス精神旺盛だから一緒にいても飽きないでしょうし」
    
「お互い本気にならない相手の集まりなんで本気になる子は来させません。その辺の犬より僕の嗅覚エグいっすよ」

「女性と犬を一緒にしないの!」
「どちらも甲乙付けがたいほど愛らしいっすよ?」

 救急も引き受けるクリーレンは、やっぱり当直や急変や緊急などの関係で病院にいる時間が自然と長くなる。

 当直の翌日は六時間勤務

 大体、朝から働いてそのまま夜当直をして、さらに朝から普通に働いて、その日がまた当直じゃなければ夕方帰る。

 そんな生活をしていたら、朝輝先生や敬太先生みたいに羽目を外す必要があるのかも。

 朝輝先生は特定の恋人を作れないほど多忙なのは想像がつくし、今の状況だと意識的に作らないのかも。

 でも敬太先生はね。
 葉夏先生の懐の深さに驚く。