「ねぇねぇ、ユリちゃん」
 早く教えてほしくて焦れったくて白衣の肘を引っ張るとユリちゃんの声がした。

「辞令、阿加 麻美菜殿」
 ムードを作り上げて粛々と読んでくれる。
「以上。と言うことで、麻美菜は“あの院長チーム”に異動」
「ユリちゃん、どうしよう......」
 本気なの? 床にへたり込みそうよ。

 私の異動先、それは。

 華やかな経歴をもつイケメンエリート道永 隼人(みちなが はやと)院長率いる精鋭揃いの花形チーム。

 極上スペックの道永院長を筆頭にチームの先生たちも院長同様に高学歴高収入、実家も太い金持ち、イケメン長身スタイル文句なしって非の打ちどころがない錚々たる顔ぶれ。

 チームの噂を聞くことはあっても直接関わったこともなく、私には無縁の雲の上の存在。

 あらためて頭に浮かぶ情報でチームの存在の大きさを確認したら足の震えが止まらない。

 無茶な異動を思い付いた理事長ったら、なにを考えているのよ。

 落ちこぼれでポンコツな私を強者猛者(つわものもさ)の中に放り込むなんて、足手まといで迷惑をかけて足を引っ張る未来しか見えない。

 こんな私が入ったら院長チームに申し訳ない。

「アミダくじで決まったんじゃないの? なんてね」
 ユリちゃんが他人事みたいにニコリと微笑む。
 抜擢理由がそれくらいじゃないと自分自身も信じられない。

「羨ましいの、マジで代われるなら私が代わりたい。行きたい!」
 出来がいいユリちゃんの本心だと思う。

 私にとっての噂の院長は鬼より怖い恐怖でしかない。

 神がかり的な確かな腕前は周りから一目置かれる存在だそうで、難易度の高い手術をいとも簡単に成功させたとか、もはや伝説みたいなエピソードを何度も耳にしている。

 人を寄せ付けないとか無愛想とか不機嫌そうな態度とかきつい言い方とか、院長の噂は私たちスタッフにとってマイナスなことばかり。
 
 社食に入って、席に着いてランチを食べ始めてもユリちゃんの興奮は収まらず、私の不安は大きくなるばかり。

 大きな窓の外からは秋の優しい日射しが私たちスタッフを包み、無造作に並べられた四角い四人掛けテーブルや丸テーブルの真ん中には、橙色や黄色の可愛い小花が花瓶挿しで飾ってある。

 院長チームに異動か。院長のイメージとチームに入ったイメージを思い浮かべる。
 自分なんかが入ったら......とりとめのない憶測に神経を疲れさせる。 
 
 決まったものを考えても仕方ないのに、考え込むのがやめられない。こんなめんどくさい性格を治せる薬が欲しい。

 私がエリート精鋭チームに入っちゃったら、緊張して初っ端からミスの連続で焦って慌てて、また失敗して呆れられて......考えれば考えるほど、その仮説は説得力をもっていく。

 あああ、嫌だ。院長とチームの存在が大きすぎて怖い。

 見るとはなしに外の景色を眺めていると、隣のテーブルの会話が聞くとはなしに耳に入ってきた。