信じろほど信じるなって言うのは、恋愛猛者の先輩看護師たちからの忠告。
 情報だけは通になっていった私みたいな人を、世間では耳年増って言うそうで。

 敬太先生も朝輝先生も二人ともタイプじゃないけれど、確かに噂通りの超絶イケメンではある。  

 朝輝先生は美形に輪をかけて優しさやマメさや気遣いでモテモテって分かる。

 敬太先生って、とりわけ女性になにするでもないのにモテモテなんだ。女性が放っとけない典型的な男の人なんだ。
 
「もう一度言うわよ、阿加ちゃんにだけは手を出さないでよ」
 
「矢神先生、なに言っちゃってるんすか、心配いらないっすよ?」
「いいから波島くんは黙ってなさい」

「塔馬先生、うちのチームの女の子に手を出して痛い目にあったから懲りたと思いますよ」

「敬太、いつの話よ」
「だいぶ前のつい最近」
「いつなのよ!!」
 仕事がつらいって辞めていく看護師が多いって言っていた。
 つらいって実はこれのゴタゴタがつらくて辞めていっちゃうとか?

「矢神先生にフラれていた寂しい時期っすよ。あのころの塔馬先生はかわいそうなほど落ち込んでいたんすよ」  

「葉夏聞いたろ。そうだ、そうだ、そうだった。なっ? 波島」
「ねっ、塔馬先生」
 嘘つき、庇い合ちゃって。

「それと俺は身内には手を出さない。けど、相手から迫られたら乗る。女に恥をかかせたら男が廃る」

 それらしいヘンテコなポリシーを掲げている。結局しちゃうんだ、女の人からもじゃんじゃんアプローチしてくる感じだもん。

 敬太先生を見ていると英国王立獣医科大学大学院で博士号取得して、その後は同じ大学でレジデント修了って華やかな経歴がある獣医っていうのが信じられない。
 
「あんたのは女癖が悪いって言うのよ。女好きって病気なら治せるのに、女癖っちゅうのは三代先まで遺伝するのよ!」

「ホントかよ、それどこで習った?」
「自説よ」
「じゃあ、俺と葉夏の孫まで女泣かせってわけか」
「は? なんなの」
「プロポーズだ、結婚しよう」
「やっつけ仕事のプロポーズなんて却下よ、却下!」

「葉夏よ、なぁ聞けよ。たいていの男は結婚相手とは思わない女といちゃつき、男といちゃつかない女と結婚するんだよ」

「おめでとうございます、証人は僕と阿加ちゃんっす」
「馬鹿言わないで、仕事で手いっぱいなのよ」
 この三人の中に怖い人はいなさそう。楽しくなりそう、打ち解けられそう。

 しかし、敬太先生は女性関係が派手な遊び人としか思えない。

「さっきから塔馬先生、阿加ちゃんに興味を示さないっすね」
「そういえばそうね、私の心配は取り越し苦労かしら」

「小さくて黒髪で凹凸ない華奢な体型には食指が動かない」
 辛辣な先生。敬太先生に好かれなくてもかまわないし。

「興味ない、どうにもオスの血が騒がない」
「ああ、ああ、ああ」って納得したみたいな朝輝先生の声。

「この子には、人目を引くとびきりの美形の可愛さはあるけど、それだけ。それ以上はなんも感じない」
「男の反応ないっすかぁ」
 なぜだか朝輝先生が残念そう。