仲の良かった頃の二人が思い出される。
ぽつりぽつりと瀬良くんとの思い出を話すのを二人は聞いてくれた。
告白した時、初デート、将来の約束、聞いても面白くないだろうに、「うんうん」「そうだったんだね」と相づちを打たれて、少しづつ混乱した心が落ち着いてきた。
やさしくされてうれしくて、その暖かさに思わず心の痛みを口走っていた。
「私、こんな風に、やさしくしてもらえる人間じゃない・・・・・・」
風太が困った顔をするのがわかった。
言葉を探しあぐねているようだ。
困らせたいわけじゃない。
それでも言葉はとまらなかった。
「私から彼をとったら、何も残らない」
そうなのだ。
瀬良くんとの別れは悲しい。
悔しい。
5年の歳月を思うと、恨み言の一つでも言いたくなる。
だけどそれ以上に、瀬良くんがいなくなって気づいた。
いかに自分が彼中心に生きてきたかということ。
彼がいなくなったら、何をしていいか、どうやって歩いていいかすらわからなくなってしまった。
ランチは何を食べる?週末は何をする?
ぽっかりあいた人生に恐怖を覚えた。
その瞬間、ふわっとコーヒーの香りがした。