瀬良くんの言うことは絶対だった。
ずっと彼の言うことをきく5年間だった。
嫌だった訳ではない。それはそれで私の幸せの形だったのだ。
それでも、今、私の幸せの形は変わったのだとわかった。
風太を怒らせてしまったことで、はっきり気づいた。
それが遅すぎたとしても。

“お断りします”
7文字を、息を詰めるように書き上げた。
私の意見なんか聞かなかった瀬良くんに、届くようにと願う。
その簡潔な文字列が送信されたあと、すぐにスマホが鳴った。
そして、いつの間にか週末に瀬良くんと会うことに決まってしまっていた。
妙に達観してしまい、客観的に自分を見つめている自分が居た。
その自分がつぶやく。
「あぁ、私、途方に暮れてる……」
明るく光るスマホの画面には、待ち合わせ場所と時間が記されている。
私が来ないことなど微塵も考えていないような強引さは、付き合っていた時と何も変わりがない。
待ち合わせ場所は、あの冬の日に私が瀬良くんにフラれた場所だった。