吾妻くんは、私を握る手に力を込めた。
そして――
「俺はあの日で止まるつもりないから……。倉掛さんと、もっと仲良くなりたい。
だから――俺の事はトキって呼んで」
「と、トキくん……?」
「そう。少しずつでいい。離れるんじゃなくて……近づきたい。
じゃないと俺は、何のために今日まで――」
「?」
私と目が合って、ハッとなるトキくん。握っていた手をすぐに離して「ごめん」とだけ言い、先に教室に入る。
『じゃないと俺は、何のために今日まで――』
あの言葉が、気になる。
どういう意味?
どういう事?
それを知るには、もっとトキくんと仲良くならないといけないって事だよね?
仲良く、なれるかな?
そう前を向きかけた時――
「「「キャー!!」」」
トキくんが教室に戻ると、女子達の歓声がすぐに湧く。
その声が、私の戦意を簡単に削いだ。
「(あの声に、私みたいな地味子が勝てるはずがないよね……)」
ため息を一つ漏らす。
今日は入学式。
そして、
私の初恋が、静かに幕を閉じた日――