その後のことは、ぼんやりとしか記憶にない。
「じゃあ戻ろうか」と言った私の後ろを、大人しくついてきてくれた吾妻くん。
そして教室に入る、その前に――
私は吾妻くんに振り返って、お礼を言った。
「受験の日は本当にありがとう。みっともない姿ばかり見せちゃってごめん。吾妻くんがいなかったら、今の私はなかったと思う。支えてくれて、嬉しかった」
一気に喋ると、吾妻くんは少しだけ苦い顔をした。
教室に入ろうとする私の手を取って、振り向かせる。
私の瞳に写ったのは、吾妻くんの切ない顔――
「受験の日は、今度いつ会えるか分からないのに……先のことが楽しみで仕方なかった。
なのに今日は……これから毎日会えるのに……変だ。
倉掛さんが言う言葉が、まるで別れの挨拶みたいに聞こえる」
「!」
吾妻くんは、あの時も察するのが上手だった。
もしかしたら、私の「図星だ」という顔に、気づいたのかもしれない。
私は今、確かに初恋のあなたにお別れをしようとしているんだもの――