するとトキくんは、少し声のトーンを落として「その言い方は違う」と言った。聞き返すと、どうやら私がさっき言った言葉の中に不満があるようだった。
「倉掛さんはすごいのに、倉掛さん自身がそう思ってない。さっき”私でも役に立ったなら良かった”って言ったけど……私でも、なんて言い方はダメだよ。誰にでも出来ない事を倉掛さんはサラッとやってのけちゃうんだから」
「そ、そんなこと……」
「ほら、そういうところ」
「あ……」
思わず両手で口を押えた私を見て、トキくんはクスッと笑った。そして笑いながら「俺には分からないかも」と言い、私の手からタオルを取る。「ありがとう」と私にお礼を言ってくれるトキくんの瞳は、どこか遠くを見ていた。
「分からない、って何が?」
「倉掛さんみたいに、誰にでも底なしに優しくすることは出来ないってこと」
「かいかぶりすぎだよ……トキくんは」
「そんなことない。だって――」
今まで遠くを見ていたトキくんは、射抜くように力強い視線で私を見つめた。
どちらかと言えば、いつも柔らかな目をしているトキくんだったから……また、ギャップで心が跳ねる。
だけど、私が本当にドキドキするのは――ここから。
「俺にはないものを持っている倉掛さんだからこそ、気になる。目で追ってしまう。そして――惹かれるんだ」
「惹か……え?」
今、なんて?
ボンと、サッカーボールが蹴られる音がする。
ホイッスルも、部活の数だけ音が溢れてて……
でも、いつまでも私の耳に残るのは、さっきのトキくんの言葉。