――ガチャッ。
 玄関の扉が開いた音が聞こえたのはそれから早朝のことだった。

「はぁっ、雪乃(ゆきの)、いた」

 え、(そら)くん、息切らしてる?
 もしかして走って帰って来てくれたの…?

 私はそう思うもカーテンが閉まったベランダを見たまま振り返らない。

「いなくなってるんじゃねぇっかって…」

「…日曜日に来たばっかりだよ?」
「いなくなる訳ないよ…」

「今朝は冷たい言い方して悪かった」
氷浦(ひうら)闇十字(やみじゅうじ)が今、やべぇ状況で…」
「…いつ抗争始まってもおかしくねぇ」

 え……。

「だからお前を巻き込みたくなくて」

「…何それ」

 私は振り返ると、

 パサッ……。
 パーカーを脱ぎ、キャミソール一枚になる。

 鬼雪(おにゆき)の特攻服を着た(そら)くんは両目を見開く。

「何やって…おい上着着ろ、風邪引く…」

 私は右の甲で両目を隠す。
 涙が頬を伝う。


「寂しい」
「我儘かもしれないけど」
「もっと巻き込んで欲しい」