その日の深夜。パーカー姿の私は7階のベランダで(そら)くんを見送る。

 私、ちゃんと笑えてるかな?

 あっ、ぼんやりとしか見えないけど、
 (そら)くん、手、上げてくれた?

 甲高い爆音が響き渡り、私の体がびくつく。
 やがて黒のバイクに(またが)った(そら)くんの姿が見えなくなった。

 (そら)くん、夜の集会に行っちゃった…。

 “雪乃(ゆきの)に集会は必要ない”

 (そら)くんにそう止められた理由は分かってる。

 表向きでは“(りゅう)くんの彼女”で、
 未来が変わらなければ、
 クリスマスイヴには“(りゅう)くんの姫”になるから。

 一人残されたって、

「…気にしないよ」

 だって、私は今、(そら)くんの彼女で、
 (そら)くんと同居してる。

 それだけで幸せだもん。

「幸せ…なのに」

 私は両手で顔を覆う。

 分かってるのに。

 (てのひら)が涙で濡れていく。

 私も一緒に行きたかった。