明日は、朝陽君の誕生日だ。
そして前日の今日は海へ行く予定だ。
駅で待ち合わせをして彼に会った時、思わず声を出してしまいそうになった。
理由は簡単だ。
彼のモヤが今までにないほどに黒く濃くなっていて、それはもう死期が近づいているのを示しているような気がして全身が粟立った。
この日まで、ほぼ毎日朝陽君と会っていた。
彼女という特権を利用して毎日会って、毎日電話をする。ウザいとか思われるかな?とかそういった心配をする余裕はなかった。
毎日、毎日今日は大丈夫だと思ってほっとする。それを繰り返していた。
今日は、日付が変わるまで一緒にいるつもりだ。
もちろんお母さんには内緒でどうにか一緒にいたいけど、それを本人にも伝えていない。
各駅の電車だから空いていた。
「もう少しだ」
「うん!今日は日付が変わるまで一緒にいたい」
「…一緒に?それ、お母さん大丈夫?」
「うーん、正直に言ったら絶対反対されちゃうから…」
「わかった、じゃあ帰宅して夕飯食べたらこっそり抜け出そう。夜は危ないから俺がみずきの家の近くまで行くよ」
「ありがとう。大丈夫かな…バレないようにしないと」
「そうだね。今日が最後かもしれないから」
「…」
どうしてか、朝陽君は怯えた様子もないしそれどころか清々しい面持ちで私を見つめる。
「大丈夫、日付がね変わるまで一緒にいるの。絶対に、一緒にいたい」
「…そうだね。俺もそうしたい」
太ももに置かれる私の手をそっと握った彼の手は思った以上にあたたかくて、彼の体温が伝わってくる。
電車が揺れるたびに、彼の肩に私のそれが当たってしまいそうになる。
普段なら接触しないようにそうっと避けるだろうが今日はしなかった。
出来るだけ彼と一緒にいたかった。
駅に降り立つと、数人の家族やカップル、若い学生もちらほらリュックなど大きな荷物を抱えて私たちの横を通り過ぎていく。
賑やかな声を掻き分けるようにして私たちは目的地まで向かった。
海が到着すると私と朝陽君は感嘆の声を漏らし二人で顔を合わせた。
波は一定のリズムを保って太陽の光を受けとても綺麗に煌めいている。
すうっと息を吸うと、潮の香りが鼻孔をくすぐる。砂浜を二人でゆっくりと歩く。
今日はお互いにサンダルで来ていたから足を進めるたびに重たい砂がサンダルと足の裏に入り込む。
「綺麗だな」
「うん、とってもきれい」
小さな子供がお父さんとお母さんと一緒に水辺で遊んでいる様子を見たら私もはしゃぎたくなってしまって勢いよくサンダルを脱ぎ捨てると海に足首まで浸かった。
暑い日差しが肌を焼き付けるように照らすが海の水温がちょうどよくて気持ちがいい。
体温を下げていくように、ザーッと音を立てる。
朝陽君も続くようにして海に入る。初めて青春を送っているように感じた。
かけがえのない一瞬、とかよく聞くけれどそういう陳腐な言葉に惹かれたことなどなかったしそんな場面を体験したこともなかった。しかし、今、これがかけがえのない一瞬なのだと認識した。
しばらくした後、ブルーシートを敷いて二人で座った。
飲み物を飲みながら、海を眺めていた。
「そうだ。これ、プレゼント」
「え、いいの?」
「うん」
足を折って座りながら隣の朝陽君にリュックからクッキーとミサンガを手渡した。
不器用だから包装も綺麗にできなかったし、もう少しちゃんとしたものをあげたかったけどお小遣いもそんなにない学生にとってこれが精一杯だった。
「クッキーは手作りしたの。お母さんのいない時間帯に作ったんだ」
「嬉しい!ありがとう。大切に食べるよ。これ、ミサンガだよね?いいの?」
「もちろん。でも…重いかなぁ」
「そんなことない。つけてもいい?」
ブルー系の糸で作ったそれを朝陽君は嬉しそうに手首につけてくれた。
幸せな時間だった。
日が沈むまで私たちはお喋りをしていた。話の内容は他愛のない内容だ。
それなのに帰りの電車の中では、どんな話をしたのか鮮明に思い出すことが出来た。
18時過ぎというのにまだ日は完全には沈んでいない。
静かな住宅街を歩きながら朝陽君が家の前まで送ってくれた。
「家についたら!電話してね」
「もちろん」
「約束。それから夜こっそり抜け出すから…日付が変わるまで一緒にいよう」
「わかった。迎えに行くから」
「うん」
帰路につき、すぐにお風呂に入った。
そして夕飯も一気に食べ終えると朝陽君と電話をする。
繋がる電話にほっとした。もしかしたら帰宅途中に何かあったら、と最悪の事態を想像していたから。
「そろそろ家出ようかと思う。うちは別に内緒に家を出なくても怒られないけど、補導されないようにしないと」
「そうだね、電話は切らないでね」
「わかってる」
22時過ぎ、朝陽君が家を出る音が電話越しから聞こえた。
その間も、ずっと電話は繋がっていて、あと二時間で彼は誕生日を迎えてしまう。
お母さんもお父さんも22時には寝室へ行くことを知っているから、そっと二階から顔を出してリビングの電気が消えていることを確認する。
「そろそろつくよ」
彼の声を合図にそっと足音を立てずに階段を下りるが、年数の経過している木造一戸建ての家だから軋む音が響き渡る。
普段なら気にならないのに今日に限ってヒヤヒヤしながら一歩ずつ降りていく。
リビングに誰もいないことを確認して、玄関で靴を履きそっとドアを開けて家を出た。
「朝陽君っ…」
家を出るとすぐに朝陽君の姿があった。
彼の姿を目に捉えると彼の胸の中に飛び込んだ。いつの間に積極的になったのだろう。
「よかった…生きてる」
「大丈夫だよ。生きてるよ」
見上げると夜だからか、彼の体に纏うモヤはあまり気にならなかった。
彼に促されるように家を離れ近くの公園にいった。
街灯が少ないから、夜の公園は怖いというイメージしかないが今は微塵も恐怖心はなかった。それよりも彼がいなくなってしまうことの方が恐怖だった。
ブランコに腰を下ろした。
「バレなかった?」
「大丈夫。お母さんもお父さんも寝てるみたい」
「よかった。もう少しだね」
「うん」
虫の音がやけに大きく聞こえた。空を見上げると真っ暗な空に星が輝いていた。
「夏の大三角形だ」
「本当だね」
二人で夜空を見上げ、蒸し暑いはずなのに今はそんなことはどうだってよくてただ彼との時間を大切にしたいと思った。
「どうして私に親切にしてくれたの?」
「ん?それは…―みずきに笑ってほしいからかな」
「ただのクラスメイトに?」
「好きな子だからだよ」
「でも会った時はそうじゃないよ。ただの友達だったし…」
「会った時からだよ。好きだった」
正面を見据え、はっきりそう言った彼に矛盾を感じるがそれ以上聞かなかった。
時間は少しずつ過ぎていく。
携帯の画面で時間を確認する頻度が多くなる。
もしも、16歳で彼が本当に亡くなるのならば、あと一時間弱しか時間は残されていない。
「私、もう死にたいなんて思わない」
「…みずき?」
「ずっと早くいなくなりたくて、ずっと溺れているみたいだった。誰かに助けを求めることも、自力で頑張ることも諦めて早く死んじゃいたかった。でも、やめる。何があっても生きる」
「うん、それがいい。俺が悲しいから」
ブランコを漕ぎながら空を見上げた。
「朝陽君のお陰でそう思うようになった。生きてみようと思う、未来のことなんかわからないけど今をちゃんと見る。今をしっかり見つめる。頑張ってみる。だから…お願い」
―置いていかないで
朝陽君の表情はみるみるうちに涙目になって堪えられなくなった彼はすっと涙を溢した。
「朝陽君…」
何も言わずに彼がブランコから立ち上がる。そして、私の正面に立つ。
ブランコに座ったままの私を見下ろした。
「好きだよ」
「…私も、好きだよ」
彼に引き寄せられて抱きしめられた。
どのくらいそうしていただろう、“置いていかないで“に彼は何も言わなかった。
その代わり、好きという二文字をくれた。
胸の鼓動が音を立て騒ぎだす。
セットしていたアラームが公園に響く。はっとして顔を上げる。
「あれ―…」
「日付、変わったみたいだ」
彼のはにかんだ笑みを見て私は崩れ落ちるようにしてブランコから落ちた。
嗚咽を漏らし、涙でぐちゃぐちゃの顔は彼が見たら引かれるかもしれない。それでも、よかったと安堵した。
「心配かけたね。ずっと眠れてなかったんじゃない?クマすごかったもん」
「うん…」
「今日はゆっくり寝て」
「うん…明日も会える?明日、この公園で待ち合わせしよう。午後13時はどう?」
「わかった」
日付か変わってから、ようやく私たちは自宅へ帰った。
暗くてよくわからなかったが、彼のモヤも消えているのだろう。しかし頭上の16という数字はまだ消えていない。つまり、これは死期ではなく、何か別の数字なのではないか。
そう考えるのがしっくりくる。
家の前で、朝陽君が手を振ってくれた。
「またね」
「うん、またね!」
よかった、よかった。彼は死んでいない。ずっとそばにいる。
家に帰るとすぐに気絶するように眠りについた。目を覚ましたのは12時前だった。
ベッドの上で目を覚ますと、瞼が異常に重くて顔を顰めた。
机の上の鏡で顔を確認すると想像以上に不細工になっていて苦笑した。
携帯を確認すると、朝陽君から今日の朝6時に連絡が入っていた。
―昨日はありがとう
それを見てすぐに返事をした。
―今日は13時ね!今お昼ご飯食べるからすぐに公園に行く
急いで準備をして、昼食を食べているとニュースで熱中症に注意とテレビ画面に映る天気お姉さんが言っているのを聞いて麦わら帽子を被って家を出た。
トートバックには、飲み物も入れて元気に家を出る。
昨日よりも日差しが強くて青空を見上げ目を細めた。早く彼に会いたくて、自然に歩くスピードが速まる。
公園に到着すると子供たちが元気に遊具で遊んでいる。
微笑ましく思いながらベンチに腰を下ろした。
彼を待っていた、ずっと待っていた。
でも、彼はこの日私の前に現れることはありませんでした。
そして前日の今日は海へ行く予定だ。
駅で待ち合わせをして彼に会った時、思わず声を出してしまいそうになった。
理由は簡単だ。
彼のモヤが今までにないほどに黒く濃くなっていて、それはもう死期が近づいているのを示しているような気がして全身が粟立った。
この日まで、ほぼ毎日朝陽君と会っていた。
彼女という特権を利用して毎日会って、毎日電話をする。ウザいとか思われるかな?とかそういった心配をする余裕はなかった。
毎日、毎日今日は大丈夫だと思ってほっとする。それを繰り返していた。
今日は、日付が変わるまで一緒にいるつもりだ。
もちろんお母さんには内緒でどうにか一緒にいたいけど、それを本人にも伝えていない。
各駅の電車だから空いていた。
「もう少しだ」
「うん!今日は日付が変わるまで一緒にいたい」
「…一緒に?それ、お母さん大丈夫?」
「うーん、正直に言ったら絶対反対されちゃうから…」
「わかった、じゃあ帰宅して夕飯食べたらこっそり抜け出そう。夜は危ないから俺がみずきの家の近くまで行くよ」
「ありがとう。大丈夫かな…バレないようにしないと」
「そうだね。今日が最後かもしれないから」
「…」
どうしてか、朝陽君は怯えた様子もないしそれどころか清々しい面持ちで私を見つめる。
「大丈夫、日付がね変わるまで一緒にいるの。絶対に、一緒にいたい」
「…そうだね。俺もそうしたい」
太ももに置かれる私の手をそっと握った彼の手は思った以上にあたたかくて、彼の体温が伝わってくる。
電車が揺れるたびに、彼の肩に私のそれが当たってしまいそうになる。
普段なら接触しないようにそうっと避けるだろうが今日はしなかった。
出来るだけ彼と一緒にいたかった。
駅に降り立つと、数人の家族やカップル、若い学生もちらほらリュックなど大きな荷物を抱えて私たちの横を通り過ぎていく。
賑やかな声を掻き分けるようにして私たちは目的地まで向かった。
海が到着すると私と朝陽君は感嘆の声を漏らし二人で顔を合わせた。
波は一定のリズムを保って太陽の光を受けとても綺麗に煌めいている。
すうっと息を吸うと、潮の香りが鼻孔をくすぐる。砂浜を二人でゆっくりと歩く。
今日はお互いにサンダルで来ていたから足を進めるたびに重たい砂がサンダルと足の裏に入り込む。
「綺麗だな」
「うん、とってもきれい」
小さな子供がお父さんとお母さんと一緒に水辺で遊んでいる様子を見たら私もはしゃぎたくなってしまって勢いよくサンダルを脱ぎ捨てると海に足首まで浸かった。
暑い日差しが肌を焼き付けるように照らすが海の水温がちょうどよくて気持ちがいい。
体温を下げていくように、ザーッと音を立てる。
朝陽君も続くようにして海に入る。初めて青春を送っているように感じた。
かけがえのない一瞬、とかよく聞くけれどそういう陳腐な言葉に惹かれたことなどなかったしそんな場面を体験したこともなかった。しかし、今、これがかけがえのない一瞬なのだと認識した。
しばらくした後、ブルーシートを敷いて二人で座った。
飲み物を飲みながら、海を眺めていた。
「そうだ。これ、プレゼント」
「え、いいの?」
「うん」
足を折って座りながら隣の朝陽君にリュックからクッキーとミサンガを手渡した。
不器用だから包装も綺麗にできなかったし、もう少しちゃんとしたものをあげたかったけどお小遣いもそんなにない学生にとってこれが精一杯だった。
「クッキーは手作りしたの。お母さんのいない時間帯に作ったんだ」
「嬉しい!ありがとう。大切に食べるよ。これ、ミサンガだよね?いいの?」
「もちろん。でも…重いかなぁ」
「そんなことない。つけてもいい?」
ブルー系の糸で作ったそれを朝陽君は嬉しそうに手首につけてくれた。
幸せな時間だった。
日が沈むまで私たちはお喋りをしていた。話の内容は他愛のない内容だ。
それなのに帰りの電車の中では、どんな話をしたのか鮮明に思い出すことが出来た。
18時過ぎというのにまだ日は完全には沈んでいない。
静かな住宅街を歩きながら朝陽君が家の前まで送ってくれた。
「家についたら!電話してね」
「もちろん」
「約束。それから夜こっそり抜け出すから…日付が変わるまで一緒にいよう」
「わかった。迎えに行くから」
「うん」
帰路につき、すぐにお風呂に入った。
そして夕飯も一気に食べ終えると朝陽君と電話をする。
繋がる電話にほっとした。もしかしたら帰宅途中に何かあったら、と最悪の事態を想像していたから。
「そろそろ家出ようかと思う。うちは別に内緒に家を出なくても怒られないけど、補導されないようにしないと」
「そうだね、電話は切らないでね」
「わかってる」
22時過ぎ、朝陽君が家を出る音が電話越しから聞こえた。
その間も、ずっと電話は繋がっていて、あと二時間で彼は誕生日を迎えてしまう。
お母さんもお父さんも22時には寝室へ行くことを知っているから、そっと二階から顔を出してリビングの電気が消えていることを確認する。
「そろそろつくよ」
彼の声を合図にそっと足音を立てずに階段を下りるが、年数の経過している木造一戸建ての家だから軋む音が響き渡る。
普段なら気にならないのに今日に限ってヒヤヒヤしながら一歩ずつ降りていく。
リビングに誰もいないことを確認して、玄関で靴を履きそっとドアを開けて家を出た。
「朝陽君っ…」
家を出るとすぐに朝陽君の姿があった。
彼の姿を目に捉えると彼の胸の中に飛び込んだ。いつの間に積極的になったのだろう。
「よかった…生きてる」
「大丈夫だよ。生きてるよ」
見上げると夜だからか、彼の体に纏うモヤはあまり気にならなかった。
彼に促されるように家を離れ近くの公園にいった。
街灯が少ないから、夜の公園は怖いというイメージしかないが今は微塵も恐怖心はなかった。それよりも彼がいなくなってしまうことの方が恐怖だった。
ブランコに腰を下ろした。
「バレなかった?」
「大丈夫。お母さんもお父さんも寝てるみたい」
「よかった。もう少しだね」
「うん」
虫の音がやけに大きく聞こえた。空を見上げると真っ暗な空に星が輝いていた。
「夏の大三角形だ」
「本当だね」
二人で夜空を見上げ、蒸し暑いはずなのに今はそんなことはどうだってよくてただ彼との時間を大切にしたいと思った。
「どうして私に親切にしてくれたの?」
「ん?それは…―みずきに笑ってほしいからかな」
「ただのクラスメイトに?」
「好きな子だからだよ」
「でも会った時はそうじゃないよ。ただの友達だったし…」
「会った時からだよ。好きだった」
正面を見据え、はっきりそう言った彼に矛盾を感じるがそれ以上聞かなかった。
時間は少しずつ過ぎていく。
携帯の画面で時間を確認する頻度が多くなる。
もしも、16歳で彼が本当に亡くなるのならば、あと一時間弱しか時間は残されていない。
「私、もう死にたいなんて思わない」
「…みずき?」
「ずっと早くいなくなりたくて、ずっと溺れているみたいだった。誰かに助けを求めることも、自力で頑張ることも諦めて早く死んじゃいたかった。でも、やめる。何があっても生きる」
「うん、それがいい。俺が悲しいから」
ブランコを漕ぎながら空を見上げた。
「朝陽君のお陰でそう思うようになった。生きてみようと思う、未来のことなんかわからないけど今をちゃんと見る。今をしっかり見つめる。頑張ってみる。だから…お願い」
―置いていかないで
朝陽君の表情はみるみるうちに涙目になって堪えられなくなった彼はすっと涙を溢した。
「朝陽君…」
何も言わずに彼がブランコから立ち上がる。そして、私の正面に立つ。
ブランコに座ったままの私を見下ろした。
「好きだよ」
「…私も、好きだよ」
彼に引き寄せられて抱きしめられた。
どのくらいそうしていただろう、“置いていかないで“に彼は何も言わなかった。
その代わり、好きという二文字をくれた。
胸の鼓動が音を立て騒ぎだす。
セットしていたアラームが公園に響く。はっとして顔を上げる。
「あれ―…」
「日付、変わったみたいだ」
彼のはにかんだ笑みを見て私は崩れ落ちるようにしてブランコから落ちた。
嗚咽を漏らし、涙でぐちゃぐちゃの顔は彼が見たら引かれるかもしれない。それでも、よかったと安堵した。
「心配かけたね。ずっと眠れてなかったんじゃない?クマすごかったもん」
「うん…」
「今日はゆっくり寝て」
「うん…明日も会える?明日、この公園で待ち合わせしよう。午後13時はどう?」
「わかった」
日付か変わってから、ようやく私たちは自宅へ帰った。
暗くてよくわからなかったが、彼のモヤも消えているのだろう。しかし頭上の16という数字はまだ消えていない。つまり、これは死期ではなく、何か別の数字なのではないか。
そう考えるのがしっくりくる。
家の前で、朝陽君が手を振ってくれた。
「またね」
「うん、またね!」
よかった、よかった。彼は死んでいない。ずっとそばにいる。
家に帰るとすぐに気絶するように眠りについた。目を覚ましたのは12時前だった。
ベッドの上で目を覚ますと、瞼が異常に重くて顔を顰めた。
机の上の鏡で顔を確認すると想像以上に不細工になっていて苦笑した。
携帯を確認すると、朝陽君から今日の朝6時に連絡が入っていた。
―昨日はありがとう
それを見てすぐに返事をした。
―今日は13時ね!今お昼ご飯食べるからすぐに公園に行く
急いで準備をして、昼食を食べているとニュースで熱中症に注意とテレビ画面に映る天気お姉さんが言っているのを聞いて麦わら帽子を被って家を出た。
トートバックには、飲み物も入れて元気に家を出る。
昨日よりも日差しが強くて青空を見上げ目を細めた。早く彼に会いたくて、自然に歩くスピードが速まる。
公園に到着すると子供たちが元気に遊具で遊んでいる。
微笑ましく思いながらベンチに腰を下ろした。
彼を待っていた、ずっと待っていた。
でも、彼はこの日私の前に現れることはありませんでした。