自宅前まで車を着けてもらい、まったく起きる気配のない海斗に声を掛ける。

「海斗、着いたよー。起きてー」

案の定反応なくぐーすか眠りこける海斗に苦笑いしながら、紗良は海斗のシートベルトを外して抱っこしようと背中に手をかけた。

「紗良さん、僕が運びますよ」

そっと杏介に肩を引かれ、紗良は一歩下がる。
軽々と海斗を持ち上げた杏介は相変わらず逞しく、それでいて頼りになる。

「すみません、ありがとうございます」

海斗を杏介に任せ紗良は荷物を手早く掴むと、自宅へと案内した。

玄関を上がるとすぐにリビングがある。
紗良は座布団を二枚並べると、そこに海斗を寝かせてもらうように指示を出した。

「紗良、帰ってきたの?……って、あら?こんにちは」

別の部屋にいた紗良の母親が顔を出すと、見慣れない顔――、杏介を見て目を見張る。

「こんにちは。お邪魔します」

「あらあら、紗良ったらなあに?彼氏と一緒だったの?」

「やだ、お母さん、そんなんじゃないからっ。す、すみません、杏介さん」

急にそんなことを言うものだから、今まで意識していなかったのに心臓がドキンと大きな音を立て、紗良は顔を赤くしながら焦り出す。

そんな紗良の様子につられて杏介の心臓もきゅっと鳴ったような気がしたが、「大丈夫ですよ」と曖昧な笑顔でごまかした。

「紗良と海斗がご迷惑をお掛けしたみたいですみません。疲れたでしょう?お茶でも飲んでってくださいな」

「ちょ、ちょっと、お母さんったら」

紗良の母はニコニコとしながら強引に杏介を座布団に座らせ、いそいそとお茶を入れ始める。「今日も暑かったわねぇ」などと世間話が始まり、完全に母のペースに巻き込まれてしまった。