「実はそうなんです。 海斗の母の妹です。海斗の両親は事故で亡くなってしまって、 代わりに私が育てています」

「そうだったんですか。 大変なご苦労をされているんですね」

ストンと憑きものが落ちるように、杏介は納得した。
杏介が抱いていた疑問が一瞬のうちに晴れていくようだ。

だから『紗良姉ちゃん』だったのだ。
だから父親がいなかったのだ。

紗良と海斗の境遇を思うと胸が潰れそうになる。
今までどんな苦労をしてきたのだろう。
どんな生活をしてきたのだろう。

考えても想像に及ばない。

「あ、でも家には母もいて、母と一緒に面倒見てる感じなんですけど。あの、だから、前に杏介さんに、私が愛情をもって育てているから海斗が楽しそうに笑ってるって言われて、本当に嬉しかったんです。なんだか私の努力が認められた気がして。まあ、子育てを努力っていうのも何か違う気がしますけど。……えっと、何て言うんでしょうね。上手く言い表せません」

「いえ、立派です。子育てをしたことがない僕なんかが偉そうなことを言えた立場じゃないんですが、紗良さんは凄いと思います」

「……ありがとうございます」

誰かにこんな風に自分の気持ちを吐露したのは初めてかもしれない。
もちろん会社や保育園に家庭の事情を話してはある。
けれどそんな事務的なことではなくて、もっと紗良の心の奥底にあった感情を少しだけ見せてしまったような、そんな気分だった。

「あの、もしよければ、またどこかに行きませんか?」

「えっ?」

「あー、えーっと、何て言うか、僕も楽しかったですし、海斗も喜んでくれて嬉しいって言うか……」

「いいんですか?ご迷惑では?」

「どうせ仕事以外は暇してるので」

「嬉しいです。ありがとうございます。海斗も喜びます」

「じゃあこれからもよろしくお願いします、紗良さん」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、杏介さん」

二人は顔を見合わせるとはにかむように笑った。
何だか心が晴れ晴れとするような、そんな爽やかさに胸が弾んだ。