開園から遊び倒したので、お昼も過ぎてそこそこに帰り支度を始めた。
まだ遊びたいと渋る海斗だったが、車に辿り着く前に抱っこをせがみ、杏介の胸の中であっという間に船をこぎ出した。

「杏介さんすみません、重いでしょう?」

「紗良さんこそ荷物持たせてしまってすみません」

「いいえ、海斗の重さに比べたら全然余裕ですよ」

「海斗よだれ垂れてる」

「えっ!すみません!」

「いや、いいんです。子供らしくて可愛いなと思って」

杏介は嫌がることもなく面白そうに笑う。
その笑顔につられて紗良もふふっと微笑んだ。

すっかり爆睡状態の海斗を後部座席に乗せ、 今度は紗良が助手席に座ることになった。
普段自分で運転してばかりの紗良は、 助手席に乗るということが初めてに近い。
開けた視界にゆったりとしたシートは贅沢だと感じ、 紗良を新鮮な気持ちにさせる。
チラリと横目で杏介を見れば、整った綺麗な顔で真剣にハンドルを握っていた。

(こんな風に、運転してもらえる日が来るなんて……)

不思議な気分になりながら見つめていると、ふと目が合う。

「あ、えっと、今日は連れてきてくださってありがとうございました。杏介さんが誘ってくれなかったら、 私、 海斗のこと一生プールに連れてきてあげられなかった気がします」

「よかったです。……あの、 聞いてもいいですか?」

「はい」

きょとんと首を傾げる紗良に、 杏介は一旦口をつぐむ。
本当に聞いてもいいのだろうかと思いつつも、でもやはり聞かずにはいられなかった。

「紗良さんは、その、……海斗の母親ではないんですか?」

一瞬車内がしんとなった気がした。
聞くのは時期尚早だっただろうかと焦るも、 時間は戻せない。
だが紗良は何でもないようにふふっと微笑んだあと 「はい」 と肯定した。