「私と踊りましょう、ジャンヌ殿」

「……人の話聞いてました?」


 いや、聞いちゃいねぇ。
 ついつい口の端が引きつってしまう。


「もちろん、ちゃんと聞いてましたよ。
大丈夫。練習なしでもなんとかなります。適当に足を動かしていたら、ダンスに見えますから」

「適当にって――――んなわけないでしょう? 大体、わたしとのグダグダダンスなんて見られたら、貴方の評判まで地に落ちてしまいますよ」

「評判なんてどうでも良いんです。私は貴女と踊りたい」


 神官様の返答は実にシンプルだった。わたしは思わず言葉に詰まってしまう。
 感情論を相手に理屈で対抗するのは難しい。っていうか、わたしの主張は既に論破されてしまっているし、他に言い返す言葉が見つからないのだ。


 『わたしは踊りたくない』
 ――――以前のわたしなら、即座にそう切り返していただろう。
 だけど、何でだろう? すぐには言葉が出てこない。


 ふと見れば、マリアが期待に満ちた眼差しで、わたし達のことを見つめていた。