「横、座っていいかな?」


「…どうぞ」 


神田先生が丸椅子に腰を下ろす。


「絢ちゃんのお母さんお父さんと話したよ。遥輝のこと、二人の関係のこと、いろいろ」


「……」


今さら何を話したんだろう。


もう終わったことなのに。


「医者と患者さんという立場じゃなくて、親同士として話した」


「…そうですか」


もう遥輝の話なんて聞きたくない。


忘れたい。


記憶から消し去って楽になりたい。


何も知らなかったあの頃に戻りたい。


幸せも知らなかったけど、苦しみだって知らなかった。


あの頃に戻れたらどんなに幸せか。


「ご両親は、遥輝が僕の息子だって知らなかったみたいだね。すっごく驚いてたよ」