「俺は、粋のことも、光季のことも、もっともっと知りたい。またここから、始めたいと思ってる。……粋は違う?」
「……ううん」
 粋は切なげに笑ってから、俺の胸に顔をうずめた。
 顔が見えないから分からないけど、たぶん彼女はまた泣いている。
「今世でも敵わないな、八雲には……」
「粋……」
「本当は、ずっとずっとずっと会いたかった。八雲だけを探してた……。また出会えただけでいいと、気持ちを押し込めてたけど、やっぱり無理だった」
「……うん」
「八雲に、会いたくて仕方がなかったっ……」
 粋の思いがひしひしと伝わってきて、俺は必死に涙をこらえる。
 こうして再会するまで、粋はずっと、俺のことを思ってくれていた。
 その事実が、心を激しく揺さぶる。
「前世で面と向かって言えなかったこと、今言ってもいい?」
 俺は粋の瞳をまっすぐ見つめ、伝えられなかったことを口にしようと決めた。
 途方もなく、長い長い、時を経て。 
「粋が好きだ。その感情だけを頼りに、生きていけるほど……」
 我慢しようとしたけれど、涙腺が言うことをきかなくなってしまった。
 涙混じりの俺の言葉に、粋も一緒に号泣している。
 前世の悲しい別れが頭の中にどんどん流れ込んできて、胸が苦しくなる。
「十年以上、かかっちゃったね……」
 ぽつりと、粋がそんな一言をつぶやくもんだから、俺は泣きすぎて話すこともままならなくなってしまった。
 姿形が変わっても、関係ない。
 その変化ごと、君を愛おしいと思う。大切にしたいと思う。
「長かったな……」
 はなを啜りながら、粋がぽつりとそんなことをつぶやく。俺は粋の髪を撫でて、「そうだな」と低い声で頷く。
神様はきっと、前世で愛していた人と再び出会う機会を、知らず知らずのうちに皆に等しく与えている。
たとえ気づけなくても、思い出せなくても、奇跡は等しく降り注いでいるのだ。 
幾度も形を変えて、時を超えて、誰かを大切に思う気持ちがこの世界には溢れているのかもしれないと思うと、今目の前にある奇跡を抱きしめたくなる。
生まれ変わっても、また会いたい――。
 その思いが、ひとつひとつ光になって、人生の最後を照らしてくれるのだろう。
「私も、生まれ変わっても、八雲が好き。大好き」
「……うん」
 俺たちは目を合わせて笑い、それから、息をするみたいにそっとキスをした。