「そうだ、俺……、水底に沈みながら願ったんだ。生き延びられなくてもいいから、来世でも粋を見つけられますように、粋にも見つけてもらえますようにって……ただ、それだけ」
「え……」
「死ぬ間際。いつも通り海と空の境目みたいな景色を見たけど、俺はその瞬間強く目を閉じた。わざと、〝未練の光〟を……見ないようにした。超記憶能力を、消したくないと思ったから……」
「そう、だったの……?」
 粋はゆっくり顔を上げて、俺の顔に両手で触れてきた。
 まるで生きていることを、確かめるかのように。
 その両手を優しく手で包み込むと、粋は安堵したように笑みをこぼす。
「八雲が私を強く思ってくれたから、この能力が私に受け継がれたんだね……」
 超記憶能力は、強い未練を残された側に受け継がれていく……。
 かなり低い確率で起こると聞いていたけれど、まさか本当に受け継がれていたなんて……。
 俺は、何て悲しい能力を彼女に与えてしまったんだと、辛くなった。
 けれど、ショックを受けた様子の俺を、粋はそっと抱きしめてくれた。
「小学生の頃に覚醒してから、私は光季であり、粋だった」
「粋……」
「二人分の人生を楽しめると思うと、ワクワクしたよ。今は健康体だしね」
 そう言って、明るく笑う粋。
 俺はそんな彼女の背中にぐっと腕を回して、より強く胸の中に閉じ込めた。
「どうして粋は、せっかく俺を見つけてくれたのに、離れようとしたの」
 俺の問いかけに、粋は少し言葉を詰まらせる。
「だって……、今の人生が楽しそうだったから、壊せないなって思って」
「橋の上で会ったときのこと? 一緒にいた人は部活仲間だよ」
「でも、入る隙なさそうに見えたから……」
「じゃあ、何であのとき泣いたの?」
「それは、体が反射的に」
 たしかに俺は今まで、“颯真”の人生を生きてきた。だから、多少の混乱もある。
 だけど、俺は颯真の姿でも、粋が光季の姿になっていても、本能から粋に惹かれてしまっている。それは、紛れもない事実だ。
「ずっと、誰かを探してると思って、生きてきた……。それが、粋だった」
「八雲……」
「忘れててごめん。光季の生きてきた人生も、これから教えて」
 話したいことが、沢山ある。俺たちの間には、あまりにも辛い運命がいくつも立ちはだかってきた。
 でも、今、誰と一緒に生きたいか。それだけをシンプルに考えたい。