「蒼ちゃん。はい」


俯いている私の視線の先に、ふいに久保田さんの手のひらが見えた。


「はい」


再度、囁かれた。


だけど、何の行動にも移せない私。


「ほら」


優しい声音と共に、ゆっくりと私の右手が握られた。


「蒼ちゃん」


私を呼ぶ、久保田さんの声は優しい。


それで、それだけでいいんだ。


それが、何よりの特別。


これ以上、何を望むというのだろう?