──ああ、廻さん? ええ、今は大丈夫ですよ。羽根村の家にハガキ、ですか。古めかしいというか何と言うか。俺の住所以外は書かれていなかった。それじゃあ指紋とかも。え? 目星はついてる? 電話ではなくて直接話したい? はい、もちろんです。都合の良い日を確認次第折り返し連絡しますね。

男は覚醒しきれていない脳でその声を聞いていた。テレビでもつけっぱなしにして寝ていたんだっけ? にしては声がすぐ近いような……?
そこまでぼんやりと考えていた意識は、一瞬にして浮上した。
天井には明かりなど見えない。だが部屋全体がうっすらと照らされて、ようやく自身が置かれた状況を男は理解し始めた。
起き上がろうにも手足は手錠で拘束され、叫び声を上げようとしても猿ぐつわに吸い取られてしまう。地べたに直接寝かされているのではなく、安っぽいパイプベッドに転がされているようで、暴れるたびに軋んだ音が鳴った。
男は少しでも情報を得ようと光源に顔を向け──目を見開いた。

(なんで、俺が撮ったビデオが流れて)

ポルノ動画もかくやと言わんばかりの映像が、スクリーンに映し出されていた。音声は切られているのか聞こえてこないが、どれも女だけが映されている。中には身分証と共に撮られたものもあった。

それを、一人の男が見ていた。

「ああ、おはよう」

彼は友人にあったような口ぶりで挨拶をしてきた。しかしベッドの側を振り向いたりはしない。

「いや、すごいな。これ。
全部、酒にクスリ混ぜて、ホテルに連れ込んで撮ったやつだよね?
もし訴えられそうになっても、この動画ネットにばら撒いてやるって脅せば良いもんね?
いやホント、鮮やか過ぎる手口だよ」

ここで彼は振り向いた。黒髪の、いわゆるイケメンの部類に入る男だ。口元だけでなく目もちゃんと笑っていれば、女が放っておかないレベルだろう。
しかし、拘束された男はそんな能天気な感想を抱いている余裕はない。くぐもった声を精一杯出して、彼に抗議する。

「もう、そんなに興奮しないで。大丈夫だよ、すぐにこの女の子たちみたく気持ちよぉくしてあげるから」

彼はそう言うと、どこから取り出したのか、ドギツイ蛍光ピンクのプラスチック製品を顔の横に掲げた。グロテスクな形状に、男の背筋に冷たいものが走った。

「綺麗に撮ってあげるからね」

断末魔の悲鳴は、彼以外聞く者はなかった。


「あ、ねぇ」

「羽海ちゃん? どうかした?」

「この間の人、逮捕されたって」

「……ホントだ。しかも自首」

「さすがに逃げられないと思ったんじゃない?」

「良かったね、芽衣里」

「うん、凌にも知らせとこ」