昨日の夜ね、友だちと居酒屋に飲みに行ったんだ。…男じゃないよ、凌も知ってる、明日香と和泉ちゃんとうーちゃんだよ。
それで、案内された席の隣に男の人と女の人が座ってた。向かい合わせで楽しそうにおしゃべりしてたから、彼氏彼女かなって思ってたんだけど…違った。
女の人がトイレに立った時に、男のほうがクスリ、混ぜてたんだ。女の人の飲み物に。
いや、じっと見てたわけじゃないよ。席で荷物かたしたり、メニュー見てるときに、なんとなく横を見たら…運良くバッチリ見ちゃったんだよ。運悪くじゃなくて、運良く。
それで、トイレに行くふりして女の人追いかけて行ったんだ…最初は見当たらなくって焦ったけど、トイレから出たところを捕まえて、クスリのこと話したんだ。女の人、真っ青になってた。
その人、バッグとか持ってトイレ行ってたから、荷物取りに戻らなくても大丈夫だったのは良かったんだけど、じゃあどうやって帰ろうってなった。あんまりトイレが長引いたらクスリの男が来るかもしれないし、そうじゃなくても別のお客さんが来るかもで、二人してどうしようって言ってた。
それでも家族とか呼べないか、みたいな話してたら明日香が心配して来てくれて、事情を説明したら、お店の人に裏口から逃してもらえないか話してみたらって、そう教えてもらって。
女の人は明日香にまかせて、あたしが説明しに行った。だめだって言われたらどうしようかと思ってたけど、店員のお姉さん、すぐに「ではお客様をご案内いたします」って言ってくれた。
それで一緒にトイレに戻って、店員さんに裏口のドアまで送られるのを見送って、あたしも明日香と自分たちの席に戻った。
…でも楽しく飲んだり食べたりできる気分じゃなかった。だって隣にクスリ混ぜる男がいるんだもん。今になってどうしようもないけど、あの時通報しておけばよかった。
……うん、お姉さんは大事にしたくないからって、通報しなかった。無理にでもしておくべきだった?…そうだね、そこは反省してる。本当だって。
店員さんには何て説明したか?…いやクスリのことは言ってない…具合が悪くて裏口から帰れませんかって、タクシーもう呼んじゃったからって。
…まぁなんと言うか、先手必勝だよ、うん。緊急事態だったし。
和泉ちゃんとうーちゃんには明日香がメモに書いて説明してくれた。うーちゃん、すぐに出ようって小声で言ってたけど、明日香に止められて、それからは筆談してた。
もちろん、ずっと無言じゃなかったよ。適当な話して、隣の男に怪しまれないように頑張ってた。
うーちゃんが“すぐに出よう”ってメモに書くと、和泉ちゃんが横を気にしながら“隣は怪しまない?”って書いてきた。
“一杯だけ頼んで別の店で飲みなおす?”ってあたしは書いて、男のほうを見たらスマホいじってた。あの女の人に連絡してたのかもしれない。
でもすぐに顔を上げてこっちを見た。まさかバレた!? と思ったけど違くて、ニコニコしながら話かけてきた。
「お姉さんたち、大学生?」
「ええ、そうです」
明日香が涼しい顔しながらそう言って、メモを握り潰してた。
「いいなー、友だちと飲み? でもオトコいないとつまんなくない?」
「今日はそういう飲みじゃないんで」
和泉ちゃんが真顔でバッサリいった。でもクスリ男は全然怯まなかった。
「オレね、彼女についさっきフラれちゃってさぁ…一緒に飲んでくれない? 奢るよ?」
何ならオレの友だちも呼ぶし、とか言ってたけど冗談じゃない。
うーちゃんが耐えられなくなってね、「もう出るので」って、そう言って席を立とうとしたんだ。
そしたらあの男、うーちゃんの腰をつかんで抱き寄せた。
「キミ、小柄なのにスタイルいいねー、モテるでしょ?」
うーちゃんが固まってるのもお構いなし。顔まで近づけようとして本当に最悪。和泉ちゃんや明日香が離そうとして、うーちゃんの腕つかんだり店員さん呼んだりしてた。
「この酒のめるならいいよ」
あたしはそう言って男にグラスを突きつけて…まさかそんなこと言われるとは思ってなかったんだろうね、びっくりしてるうちに、和泉ちゃんがうーちゃんを引き離した。
それにただのグラスじゃない、クスリが入ったお酒。…うん、そう、それでバレて、逆恨みされたんだ。
そう言ってるうちに店員さんが来たんだけど、男はすっごく大人しく店員さんに注意されてた。…たぶんだけど、下手して酒のことがバレたらヤバいと思ったんじゃない?
で、結局、何も頼まずに出てきちゃってね。でも飲みなおす気分でもないし、うーちゃんは青い顔してるしで、タクシー呼んで和泉ちゃんとうーちゃんを一緒に帰らせて、明日香は彼氏呼んで帰るってなった。
その場で明日香と別れて、兄ちゃんにご飯食べないかって連絡した…ああ、うん、修羅場真っ最中だったじゃん。原稿、ちゃんと横手山さんに渡した?…ハイハイ今はあたしの話ね。
兄ちゃん、わりとすぐに電話にでてくれてさ、じゃあ兄ちゃんの行きつけの店で食べようってなったんだ。待ち合わせの場所も決めて…なるべく人が多くて明るいとこを選んだんだけど、それでもだめだった。
高架下の辺りだったと思う。もうすぐで待ち合わせ場所に着くからって電話したんだけどさ、その時に後ろから殴られて、うん、何が何だかわからなかった。
診てくれた先生が言うには、腹にもアザが出来てるから蹴られたんじゃないかって…兄ちゃんがもうすぐそこだからって来てくれたから無事だったんだけど…無事じゃない? 生きてるから無事だよ。
あたしは兄ちゃんの声が聞こえてすぐに気絶しちゃったから、これは後から兄ちゃんに聴いた話なんだけど…そいつは「邪魔しやがって!」って言ってた。
他にも色々と言ってたけど、ちゃんと聞こえたのはこれだけだって。
それと、どんな服とかはわからなかった。オレが声かけたらすぐ逃げたし、暗かったから顔もわからんって。
でもあたし、絶対にあいつだと思う。警察に被害届け出す時も話したんだけど、顔とか服とか覚えてるだけ…ほんと、あの居酒屋で通報しておけば良かった。
うん? ああ、大学病院だよ。そう、ここらで一番大きいとこ…うん、その病院。それじゃそろそろ病室戻らないといけないから切るね。うん、それじゃ。
それで、案内された席の隣に男の人と女の人が座ってた。向かい合わせで楽しそうにおしゃべりしてたから、彼氏彼女かなって思ってたんだけど…違った。
女の人がトイレに立った時に、男のほうがクスリ、混ぜてたんだ。女の人の飲み物に。
いや、じっと見てたわけじゃないよ。席で荷物かたしたり、メニュー見てるときに、なんとなく横を見たら…運良くバッチリ見ちゃったんだよ。運悪くじゃなくて、運良く。
それで、トイレに行くふりして女の人追いかけて行ったんだ…最初は見当たらなくって焦ったけど、トイレから出たところを捕まえて、クスリのこと話したんだ。女の人、真っ青になってた。
その人、バッグとか持ってトイレ行ってたから、荷物取りに戻らなくても大丈夫だったのは良かったんだけど、じゃあどうやって帰ろうってなった。あんまりトイレが長引いたらクスリの男が来るかもしれないし、そうじゃなくても別のお客さんが来るかもで、二人してどうしようって言ってた。
それでも家族とか呼べないか、みたいな話してたら明日香が心配して来てくれて、事情を説明したら、お店の人に裏口から逃してもらえないか話してみたらって、そう教えてもらって。
女の人は明日香にまかせて、あたしが説明しに行った。だめだって言われたらどうしようかと思ってたけど、店員のお姉さん、すぐに「ではお客様をご案内いたします」って言ってくれた。
それで一緒にトイレに戻って、店員さんに裏口のドアまで送られるのを見送って、あたしも明日香と自分たちの席に戻った。
…でも楽しく飲んだり食べたりできる気分じゃなかった。だって隣にクスリ混ぜる男がいるんだもん。今になってどうしようもないけど、あの時通報しておけばよかった。
……うん、お姉さんは大事にしたくないからって、通報しなかった。無理にでもしておくべきだった?…そうだね、そこは反省してる。本当だって。
店員さんには何て説明したか?…いやクスリのことは言ってない…具合が悪くて裏口から帰れませんかって、タクシーもう呼んじゃったからって。
…まぁなんと言うか、先手必勝だよ、うん。緊急事態だったし。
和泉ちゃんとうーちゃんには明日香がメモに書いて説明してくれた。うーちゃん、すぐに出ようって小声で言ってたけど、明日香に止められて、それからは筆談してた。
もちろん、ずっと無言じゃなかったよ。適当な話して、隣の男に怪しまれないように頑張ってた。
うーちゃんが“すぐに出よう”ってメモに書くと、和泉ちゃんが横を気にしながら“隣は怪しまない?”って書いてきた。
“一杯だけ頼んで別の店で飲みなおす?”ってあたしは書いて、男のほうを見たらスマホいじってた。あの女の人に連絡してたのかもしれない。
でもすぐに顔を上げてこっちを見た。まさかバレた!? と思ったけど違くて、ニコニコしながら話かけてきた。
「お姉さんたち、大学生?」
「ええ、そうです」
明日香が涼しい顔しながらそう言って、メモを握り潰してた。
「いいなー、友だちと飲み? でもオトコいないとつまんなくない?」
「今日はそういう飲みじゃないんで」
和泉ちゃんが真顔でバッサリいった。でもクスリ男は全然怯まなかった。
「オレね、彼女についさっきフラれちゃってさぁ…一緒に飲んでくれない? 奢るよ?」
何ならオレの友だちも呼ぶし、とか言ってたけど冗談じゃない。
うーちゃんが耐えられなくなってね、「もう出るので」って、そう言って席を立とうとしたんだ。
そしたらあの男、うーちゃんの腰をつかんで抱き寄せた。
「キミ、小柄なのにスタイルいいねー、モテるでしょ?」
うーちゃんが固まってるのもお構いなし。顔まで近づけようとして本当に最悪。和泉ちゃんや明日香が離そうとして、うーちゃんの腕つかんだり店員さん呼んだりしてた。
「この酒のめるならいいよ」
あたしはそう言って男にグラスを突きつけて…まさかそんなこと言われるとは思ってなかったんだろうね、びっくりしてるうちに、和泉ちゃんがうーちゃんを引き離した。
それにただのグラスじゃない、クスリが入ったお酒。…うん、そう、それでバレて、逆恨みされたんだ。
そう言ってるうちに店員さんが来たんだけど、男はすっごく大人しく店員さんに注意されてた。…たぶんだけど、下手して酒のことがバレたらヤバいと思ったんじゃない?
で、結局、何も頼まずに出てきちゃってね。でも飲みなおす気分でもないし、うーちゃんは青い顔してるしで、タクシー呼んで和泉ちゃんとうーちゃんを一緒に帰らせて、明日香は彼氏呼んで帰るってなった。
その場で明日香と別れて、兄ちゃんにご飯食べないかって連絡した…ああ、うん、修羅場真っ最中だったじゃん。原稿、ちゃんと横手山さんに渡した?…ハイハイ今はあたしの話ね。
兄ちゃん、わりとすぐに電話にでてくれてさ、じゃあ兄ちゃんの行きつけの店で食べようってなったんだ。待ち合わせの場所も決めて…なるべく人が多くて明るいとこを選んだんだけど、それでもだめだった。
高架下の辺りだったと思う。もうすぐで待ち合わせ場所に着くからって電話したんだけどさ、その時に後ろから殴られて、うん、何が何だかわからなかった。
診てくれた先生が言うには、腹にもアザが出来てるから蹴られたんじゃないかって…兄ちゃんがもうすぐそこだからって来てくれたから無事だったんだけど…無事じゃない? 生きてるから無事だよ。
あたしは兄ちゃんの声が聞こえてすぐに気絶しちゃったから、これは後から兄ちゃんに聴いた話なんだけど…そいつは「邪魔しやがって!」って言ってた。
他にも色々と言ってたけど、ちゃんと聞こえたのはこれだけだって。
それと、どんな服とかはわからなかった。オレが声かけたらすぐ逃げたし、暗かったから顔もわからんって。
でもあたし、絶対にあいつだと思う。警察に被害届け出す時も話したんだけど、顔とか服とか覚えてるだけ…ほんと、あの居酒屋で通報しておけば良かった。
うん? ああ、大学病院だよ。そう、ここらで一番大きいとこ…うん、その病院。それじゃそろそろ病室戻らないといけないから切るね。うん、それじゃ。