多くの男性が彼女に会いに行っているものの、誰も相手にされていないそうだ。咲也の興味は日に日に大きくなっていく。

「ぜひ、どのような美貌なのか見てみたいな……」

そして、雪が降り積もっている冬のある日のこと、咲也は牛車に乗り込み、女性が住む屋敷へと足を運ぶことにした。彼女はどのような声をしているのだろうか、どのような艶やかな黒髪を持っているのだろうか、考えるだけで胸が高鳴っていく。

「この屋敷にいる浅葱(あさぎ)様に逢いに来ました」

門の前でそう言い、屋敷の奥へと足を踏み入れていく。この時代の姫君やご令嬢は外へ出ることはなく、屋敷の奥にある部屋で暮らすのが普通だ。父や男兄弟にすらその姿は見せない。

「浅葱様」

美しいと噂の娘ーーー浅葱がいる部屋の前まで来ると、咲也は緊張しながら声をかける。部屋の出入り口には帷が下ろされ、部屋の中の様子はおろか、浅葱の姿すら見えない。

「私の名は咲也と申します。浅葱様に一目お会いしたく、参りました」