薄いピンク色の咲也の唇と、赤く艶やかなサクヤ姫の唇が重なる。突然のことに咲也は驚き、言葉を失う。ただ顔が赤く染まり、胸の鼓動が早くなっていく。

「フフッ。これで婚約成立じゃな」

そう言ってサクヤ姫が笑うと、散ってしまった桜の花が一瞬にして開花する。ザアッと風が吹いてサクヤ姫の黒髪が揺れ、咲也はそれに見惚れてしまった。



それからいくつも季節は巡っていき、咲也の小さかった体はどんどん大きくなり、服も袴や水干ではなく真っ黒な束帯を着るようになった。

咲也が大きくなるにつれて、サクヤ姫のところへ行けなくなっていった。和歌や蹴鞠を練習したり、学ばなくてはならないことが増えていく。丘に行かなくなるにつれて、幼い頃にした約束も、サクヤ姫のことも、すっかり咲也の頭から消えていった。

そして咲也が十七歳になった頃、彼の住む屋敷ではとある噂が流れていた。それは、ある屋敷にそれは美しい娘がいるというものだった。