「お前、こんな美人が目の前にいるというのに、桜しか見ないのか？こっちを見ろ」

「ご、ごめんなさい」

咲也が頰を膨らませているサクヤ姫の方を向くと、サクヤ姫は満足したような顔に見せ、指をパチンと鳴らす。すると、二人に桜の雨が降り注いだ。

「うわぁ……！」

「綺麗じゃろう？」

「うん、すごく綺麗！」

「わらわの力のおかげで、この時期になっても花見が楽しめるのじゃ」

サクヤ姫は日本酒をどこからか取り出し、飲み始める。咲也も「飲みたい！」と言ったのだが「子どもはこれを飲んでいろ」とお茶を渡され、渋々それを飲み始める。

桜の花びらが降る中、咲也は隣に座るサクヤ姫に屋敷でのことを話す。サクヤ姫はそれに相槌を打ちつつ、咲也の頭を優しく撫でる。その目はとても優しく、まるで母親のようにも見えた。

「人間など汚らわしい生き物だと思っておったが、こんなにも可愛らしい人間もおるのだな」

サクヤ姫は咲也の髪を指で掬い、遊ぶように撫で、まだ小さな咲也の体を抱き締めた。トクトクと咲也の心音が彼女に伝わっていく。