サクヤ姫はとろけるような笑みを浮かべ、震えている咲也の手を取る。その力はとても強く、振り解けないほどだった。恐怖を感じている咲也の顔を、サクヤ姫はジッと見つめる。

「わらわとの婚姻の誓いを立てたこと、忘れたとは言わせんぞ?お前にはわらわの夫になってもらう。……わらわという婚約者がおりながら、こんな女に和歌を送っていたことに関しては、一生許す気はないがな」

「サクヤ姫、待って……!」

咲也が懇願する暇は与えられなかった。桜の花びらが洪水のように部屋に雪崩れ込み、二人を包み込む。使用人たちは悲鳴を上げるも、どうすることもできない。

花びらの洪水が止んだ後、部屋にいたはずの咲也は、まるで最初からいなかったかのように姿がなかった。

それから、咲也の行方はずっとわからないままである。