数多くの男性に興味を示さなかった浅葱が侍女づてとはいえ手紙を渡したことはたちまち噂となり、咲也は多くの人から「どうやってあの浅葱様を落としたのだ!?」と質問されることになる。

通い続けて一年弱、今日も咲也は浅葱の元へと向かう。まだ一度も姿を見たことのない彼女への愛を詠んだ和歌を添えた手紙を持って……。

「浅葱様、咲也です」

「咲也様、来ていただきありがとうございます」

帷の向こうから鈴を転がしたような声が聞こえてくる。その声を耳にすると、咲也の心は落ち着いていき、胸が温かくなるのだ。

「もうじき冬が終わりますね」

咲也がそう言うと、浅葱から「はい」と返事が返ってくる。積もった雪が溶け、空気が温かくなり始めたら、美しい花々が咲くだろう。その様子を想像しながら咲也は続ける。

「春になったら、一緒に桜を見に行きませんか?綺麗な桜が咲く丘を知っているんです。浅葱様にもぜひ見てほしい」

幼い頃、屋敷を抜け出して行った丘のことを思い出す。あの丘にある桜の花は、夏が近付いても、雪が降る真冬でも、薄いピンクの花を咲かせていた。そこまで思い出し、咲也は首を傾げる。