時は千年前の平安時代。日本独自の国風文化が誕生し、仮名文字によって様々な物語が作られ、香や蹴鞠など華やかな貴族文化が花を咲かせていた時代だ。

「ハァ〜……。退屈だなぁ」

貴族が住まう寝殿造の広く立派な屋敷の中で、青い括り袴に水干、半尻を着た少年があくびをしながらウロウロ屋敷の中を歩いていた。少年の名は咲也(さくや)。まだ八歳である。

甘い香が焚かれた屋敷には、多くの人間が出入りする。だが、多くの大人は蹴鞠や和歌を詠むのに夢中で、誰も咲也のことを見てはくれない。そのことに咲也はいつも怒っていた。

「決めた!今日こそ決行してやる!」

咲也はキョロキョロと辺りを見渡す。近くには誰もいない。大人たちは、先ほどから釣殿に集まって釣りを楽しんでいる。咲也の様子を気にしている人など、誰もいないのだ。

「こんな家、二度と帰らないぞ!」

咲也はそう言い、何も考えずに感情の赴くまま屋敷の外へと飛び出す。そして、賑やかな京の都の道を走っていった。