私は悠を思い浮かべた。

……もし、悠だったら、どんな姿でオーディションのステージに立つだろうか。


今まで悠が歌ってきてくれた曲は私の心に響いた。

だけど、もし、私が悠を審査で不合格にするのなら。



「自分の芯が定まっていないから、とかですか?」



悠だったら、の話だけど。

悠の夢は歌手になること。

想いを届ける歌をうたっているはずなのに、どこかオーディションに合格するためにはどうしたらいいのか、って試行錯誤しそうだ。

その試行錯誤が要らないのかなって私は考えた。

だって、誰かに想いを届けるのに、合格だとか不合格だとか余計なことを考える必要はない。


つまり、 “別れた彼女を想った歌”に反していることをその方がしていたから、その人の芯が定まっていないように感じた……。

私だったら、その理由で不合格にしてしまうと思う。


例え、原石でも。

私が好きな悠の歌は、ありのままを届けてくれる悠の歌だったから。

いつでも等身大で心に響く歌。

それを無理して背伸びしていたら、届くものも届かなくなる。


なんて、勝手に想像してしまったけど……。

私はちらりと坂本さんの表情を伺う。

坂本さんは口をぽかんと開け、目をぱちくりさせていた。