泉はなにも言わず私の手を閉じ込めたまま、前を見て歩き続ける。
だから、また繰り返す。
「離してって言ってる」
「やだって言った」
「泉、お願いだから。やめてほしい」
自分の声があまりに弱々して、こんなに容易く揺れる自分が悔しくて、下まぶたが膨らんで気持ちが溜まっていく。
「……ごめん、そのお願い、聞けない」
……うそ、本当は聞いてくれてるんでしょ?
意地悪なふりして、いつだって私の心の中を見透かして、ずっとそうやって……。
今だって、手を離してくれないのは……。
謝らなきゃいけないのは私なのに。泉は汲み取ってくれる。だから、余計に……。
……ごめん、泉。
目に溜まった涙が一粒だけ滑り落ちたから、泉に気づかれないよう慌てて拭った。