バックの紐を持ったまま泉の手のひらと顔を交互に見れば、「おせぇ」と苦々しい声が聞こえた。
え、なに、が……
意味がわからなくて聞き返そう思ったけれど、口にする前にあっという間に私の手が攫われた。
「帰ろ」
泉はさっと身を翻して、私の手を引いて歩き出す。引っ張られるように歩き出すと、急に手のひらに意識が集まって熱くなった。
「ちょ、なんなの、離してよ」
「やだよ」
背中越しにそんな子どもみたいな言い方が聞こえれば、調子が狂って返事ができなくなってしまった。
「……おかしいでしょ」
苦し紛れに頬を膨らませてつぶやいた言葉は、きっと泉には届いていない。
私だってわかるんだよ。幼馴染はこんなふうに手をつないだりしない。
でも、幼馴染だからだね……鳥肌たたないもん。
私の手を包み込む泉の手が、記憶の中のそれより大きくなっていて、泣きたくなる。
一番近くを手放したのは私なのに、一番近くにいたいと思っていた。