髪を触れば、べったりとした感覚とともに指にまとわりついてくる液体。


『どーせなら、全部かけちゃう?』

『あーいいねぇ』



違う、違う、違う。

わかってるのにどうして容易く捕まるのだろう。


目の前で口をぱくぱくうごかす真由ちゃん。慌てている男の子のお父さん……あれ、なんか思っていたより若い人だな。視線を下に落とせば、目をこすりながら泣いている男の子。


視界は妙に冷静にまわりを捉えるのに、音が聞こえない。頭と体が暗い中へと引っ張られる。



『莉世!』



あの時。忘れちゃいけない。



『大丈夫?!』



私は、あの時……。



「莉世!大丈夫か?!」



その声に、ぱちんっと心の奥で何かが弾けて、頬に大きな温かさを感じた。