男の子の泣き声に驚いて、抱っこしていた人が私の方を振り返った。

私の濡れた姿と、男の子の持っていた空のカップに視線を走らせると、その人はさーっと顔を青くした。



「すみません!!あああ!!弟が!!す、すみません」



今も泣いている男の子を降ろして、カバンの中を探って「な、何か拭くもの!!!」と慌てている。



「莉世!大丈夫?!」



真由ちゃんの尖った声が聞こえた。すぐ隣にいるのは見えるのに、なぜか遠くから声が聞こえるようにくぐもっている。


……視界がぐらんと揺れた。



『うわー、きったねー』

『急にぶつかってくんじゃねーよ』


くすくすくす……。



聞こえるはずがない。なのに、聞こえる。


足が震える。息ができない。苦しくて視界が滲んでいく。