何気ない顔で振り向かなきゃ。怪しまれる。


わかっているのに、いま動いたら、誰かに見られたら、せっかく我慢していたものが止まらなくなりそうでこわい。

胸の奥からこみ上げてくる熱い塊を、なんとかして押し込めようとしているせいで、息が詰って苦しくて俯いた。


そのまま動けずにいれば



「……大丈夫だよ」



ふわりと声が落ちてきて、地面を見ていた視界に潤くんが滑り込んできた。



「よく、頑張ったね」



頭に乗せられた温かい手の重みを感じて、急に視界が滲んでいく。


ゆらゆらと揺れている世界で、優しげに眉を下げて私を見ているその瞳を見れば、私の中で何かが、ことりっと音を立てて動いたのを感じた。