「莉世さぁ……」


名前を呼んだはいいけれど。


『俺じゃだめ?』


言いたいことは、いつものように喉の奥でつっかかって出てきてくれない。

捕まえた手を離したくなくて、でも捕まえ続ける理由も見当たらなくて。

スマホの震える音に莉世が瞳を揺らしたから、俺は観念してその手を解放した。


……遠藤?


さっき別れた友達の名前が表示された画面を、親指でスライドさせつなげると興奮気味の声がした。



『おい!その子だれ?!』

『……なに?』

『いまベンチで一緒にいる子!めっちゃかわいいじゃん!』

『……どこから見てんの?』

『いや~盗み見するつもりなかったんだけど……』



ぐるっと周りに視線を走らせると、少し離れた自販機の影に遠藤と林を見つけた。



『ね、ね、紹介して!近く行ってもいい?!』

『来んな』

『ひでーもう行く!今すぐそっち行……』


……プッ。


紹介なんてするわけねーだろ。


通話を強制終了して振り返れば、莉世はひとりで電車に乗り込もうとしてる。


なにしてんだよ?

……もしかして。

今日デートだったとか言う、俺の知らない誰かさんのところに戻るつもり?