自販機で買った莉世の好きなオレンジフレーバーのミネラルウォーターを手に、後ろからベンチに近づく。

目を押さえている腕をそっと掴んで顔を覗き込めば、長いまつ毛が色を濃くしているから微かに湿っているのがわかる。

莉世は驚いて目を見開いた直後、忙しなく瞬きを数回して涙を閉じ込めて、いつも通り俺の名前を呼ぶ。



俺の前でも泣いてよ。



そう思っても何も言えない自分がおもしろくなくて顔をしかめた。


ここにいる理由を聞かれれば、まさか莉世センサーが作動したからとも言えず、差し障りない「ここ、俺の学校の最寄り駅だから」と事実を伝える。

莉世ははっとした顔をした途端に、自嘲気味にうなだれた。

足元に落とされたその視線が欲しくて、わざと顔を覗き込みながらカマをかければ、また逃れていく色素の薄い瞳。



……今回もダメだったんだ。



ずるいとわかっているけれど、どうしようもなくほっとするのを止められない。