熱くて柔らかい莉世の唇。

知ってしまったから。

失うなんて、もう耐えられない。



唇を離しながらゆっくりと瞼を開けば、ながいまつげに囲われ影をつくる莉世の目元。

それが微かに震えながら上向けば、潤んだ瞳が月明かりに煌めいて吸い込まれそうになる。

莉世ははっと我に返ったように、目にきっと力を入れて俺の腕の中から抜け出そうとするから、逃げられないようにそのまま抱きしめた。



「…もう、誰か、通るかもしれないよっ」

「…うん」

「あの、もうすぐ家だし、近所の人とか……」

「……うん」



わかってる。こんな道端で、本当に俺、どうかしてる。

でも、腕を緩めることができない。

こんなに莉世一色になっちゃって、前よりもっと莉世しか見えなくなっちゃって。

独り占めしたくて、どんな莉世も全部欲しくて、離せない。

さらにぎゅっと力を込めて、その首筋に顔をうずめるように抱きしめれば、そっと背中に莉世の手がかけられ包み込むようなぬくもりをくれる。