「……しょうがなく、なくない?」


ノアは誰よりも、どんなときも、人間らしかった。

名前に、そして生きることに執着していた。


ねえ、これって、ぜんぜんしょうがなくないよ。


『世界ぜんたいが幸福にならないうちは個人の幸福はありえない』


……ノア、やっぱりわたしも、この言葉には反対。

だからわたし、考えたんだけど。これはどうかな?



『個人が幸福にならないうちは世界ぜんたいの幸福はありえない』



「ノアっ……」


わたしは転がるようにアパートの階段を降りていった。



大切な誰かが幸せならわたしも幸せだし、不幸ならわたしも不幸だ。


たとえ世界が幸福になったとしても、わたしの大切な人がそのために犠牲になるなら……今度はわたしが幸せになれない。



そんな世界を、わたしは────ほんとうのさいわいとは呼べない。