「今日,ありがとう」



水族館を出て直ぐ,琴音はぽそりと言った。



「記念日とかって覚えててくれたのも,計画して連れてきてくれたのも。私,すごく嬉しかった」



嘘じゃないと言うように,琴音が続ける。

 

「私は一緒にいたいとは思っても。こんなの絶対思い付かなかった。だから,ありがとう」

「またいつか2人で来よう」



琴音は多分,今日だけで当分飽きるとかなさそうだから。

俺はそう口にする。

少しでも喜んで貰いたくて。



「うん。いいね。そうしたい」



口元に両手の指先を集めて,ふふっと琴音が笑う。

もう夕方も終わりそうな時間。

近くには誰もいなかった。

寄せられた手を,片手で掴んで。



「…流雨?」



俺は何となく,琴音に初めてキスをした。



「?!」



ぱくぱくと口を開いては顔を赤くする琴音を見て,怒ってはないなとほっとする。

何故今しようと思ったのかは分からないけど。

ただ,可愛かったから。