「あっ痛っ」
払った筈の大きな草は、すぐにしなって戻ってきて、わたしの目の近く掠めていった。
咄嗟に、目を瞑り顔を背ける。
「ゆづか! ああほら、だから言っただろう。見せてみろ。目にはいったか?」
焦ったカウルに、両頬を挟まれ上を向かされた。
目の下がじんじんと熱い。ちょっと涙目になった目を開けると、目の前に真剣な瞳をした、カウルの顔が迫っていた。
「たぶん大丈夫」
「ったく。お転婆なやつだな。この水草は育つごとに葉が鋭利になるんだ。少し血が滲んだが、薄皮を切っただけみたいだな。
ゆづかは頓着してないが、一応姫という立場なんだ、肌などはなるべく傷つけないように、気をつけてくれ」
「はい……」
カウルは親指で軽く血を拭うと、傷口をペロンと舐めた。
(……ほ……ほおおおお?!)
わたしはびっくりして、目を見開いて固まった。
「痛むか? ちょっと我慢してくれ、ノーティー・ワンには、唾液が化膿を止め、治癒を早めるという治療法がある。お前の綺麗な肌に、傷跡が残ったら大変だ」
大真面目に語るカウルの唇がせまり、傷口に何度も舌を這わせた。
チュッと皮膚がなんども吸われる。
それは、あれですね? 少女漫画の世界で良く見かける、ヒーローがヒロインの傷を舐めて治す的なあれですね?!
「ん? なんだ。首からも血が出ているじゃないか!」
ぬるん、と首筋にも柔らかい感触がし、とうとうわたしは悲鳴をあげた。
抱き締められながらそんなことをされたら、たまったもんじゃない。
「ふおおおおおおおおお!!」
その声は湿地帯に響いたらしく、「ゆづか!!」「姫さん!」「姫様ーー!!」と、周囲に散っていた男達が、一斉にわたし達のいる場所まで集まってきた。