「リア様がなぜこのような所に……」
リアの我が儘で非道な性格は、国民の誰もが知っていた。
粗相をしたら、どんな報復をされるかわかったもんじゃない、というのが今までのリアに対する認識だ。
両親もリアを恐れて震えていた。
身分の高い物への挨拶は、跪き床まで頭を垂れるのが礼儀だ。
両親が床に膝をつき深々と頭を下げると、ゆづかも腰を直角に折って、頭を下げた。
「あ、おはようございます」
普通に挨拶をしたゆづかの腕を掴んだ。
「おい、何やってるんだ?」
「え? 普通に挨拶をお返ししたんだけど、まずかった? なんかマナー違反だったりするっけ」
「……いや、そうか。大丈夫だ」
きょとんとしているゆづかに、フェンと両親は困惑していたが、笑いをかみ殺した。
リアとの違いを見せつけられるたびに、何故か嬉しくなる。
ゆづかは妹が座る椅子の前に移動すると、床に膝をつき跪き、目を合わせようとしない妹を見上げた。
「リア姫!」
「何をなさっているのです!」
両親は驚愕した。
一国の姫が床に膝をつけるなど、ましてや庶民より頭を低くするなど、考えられないことであった。
「おまえ、何やって……」
フェンも目を見開いた。
妹も固まっている、
「フェンからあなたの話を聞いてね、わたしにも出来ることがないか考えたの。これをどうぞ」
ゆづかは持っていた麻袋から、一晩かけて作ったカツラとやらを取り出す。
昨日散切りにした髪は丸みを帯びたフォルムの帽子にに生まれ変わっていた。
「なにこれ……」
「ええとね、カツラっていうの。わたしの元いた国では結構メジャーでね。おしゃれで被ったりもするんだよ。……ちょっと、失礼するね」
戸惑う妹に、ゆづかは立ち上がり頭の布に手を掛ける。
「な、なにをするのです……!」
妹は生毛しか生えていない頭を必死に隠した。