ブロロロロ~と、バイクで出発した二人の背中が小さくなる。
切られた髪が風に乗り一本飛んできて、フェンはそれをパシッとつかんだ。
手のひらにのせて眺めると、金の髪は柔らかく、透けるほどの美しさを纏っていた。
謝罪で切ったのか? 罪滅ぼし?
いや、それにしては、なんだか楽しそうにしていたぞ。
あいつからは嫌味も同情も感じられない。
普通剣で切るか?
国宝だぞ。
世界に、ただ一人しかいないと言われる伝説の髪だ。
いや、たとえ普通の髪だとしても、女があんな適当に切るなんて信じられない。
「意味わかんねぇ……」
思わず呟く。
視線を感じ顔をあげると、周囲の男どもが俺をじっと見ていた。
「あ? んだよ、見てんじゃねえよ」
気恥ずかしさを感じて、ぶっきらぼうになった。
「フェンさん、それ食べないんですか?」
「は?」
「いらないなら俺にください」
「おい抜け駆けすんなよ。俺だって食べたいっつーの!」
「名前なんて言ったっけ?」
「サンドなんとか!」
「そうそれ! フェンさんサンドなんとか、分けてくださいよ!」
「いや、俺だ!」
我先にとムサイ男どもが迫ってきて、揉みくちゃになった。
ぐわっと何本もの腕が籠に向かって伸びてきて、フェンは慌てて籠を抱えて飛び退いた。
「ばっ……さ、触んじゃねえ!」
「えーだって要らないんでしよ?」
「ゆづかの飯! 新作! それが一つしかないとかフェンさん狡いっすよ」
「食わせろ!」
ーーお、お前らは血に飢えたゾンビか何かか!
目の色を変えて追いかけてくる男達と、籠の中のサンドイッチとやらを見比べ、俺は大口を開けるとそれを一気に放り込んだ。
頬一杯に詰める。
「うわーーー! 食われたーー!!」
「ゆづかの飯は食わないって言ってたくせにー!!」
男達は頭を抱えて嘆き悲しんだ。
バカヤロー。争いの火種になりそうなのを残しておけるか。
不本意ながらもモゴモゴと咀嚼する。
パンパンに膨れた頬が落ち着いてきたころ、その旨味が口内に広がった。
「うまい……」
こんなに柔らかいパンは食べたことがなかった。なんの力も入れずとも、口の中でしゅわっととろけ、甘みと麦の味が感じられる。
挟まっていた具材は卵であった。
細かく砕き、見たことのない白くまったりとしたソースで和えられている。ぷるんとした白身とホロリとした黄身。それらは口の中に纏わり付く感じがするが、一緒に入っているキュウリとレタスがみずみずしく、まったりさを和らげさっぱりと仕上げてくれていた。パンに良く合っている。
「なんだこれ……」
やばい。一つじゃ足りない。もっと食べたい。
そこまで考えてからブンブンと首を振った。
いや、腹が減っていたからだ。
ーーだから、こんなにも美味く感じるんだ……。
みんなが美味いと伝えたとき、嬉しそうにするリアの顔を思い出し、とても複雑な気分になった。