「ロット! 控えているか!」

声を荒げると、扉の向こうから男の子が「へいっ」と慌てて顔を出した。

ロットは中学生くらいの年齢だ。
カウルの雑務のお世話係として、側に控えていることが多い。


「良く冷えた地下水と、やけどに効く塗り薬を持ってきてくれ」

「はいっ!」

ロットは指示を聞くと、直ぐに走って行った。


「そんな、軽いものだから大丈夫だよ」

「いいや、痛むのなら薬を塗っておかないと。お前の美しい肌に傷が残ったらどうする。ただでさえ畑仕事や調理で傷が増えているのに……
はあ……リアの時は少しは働けと思っていたのに、ゆづかは働きすぎだな。あまりにも弄らしいと、そんなに頑張らなくていいと、腕の中に閉じ込めておきたくなる」

カウルは真剣な顔をして、歯の浮くようなセリフを言った。


「ええと、あ、ありがとう……」

しまった。こういうときなんて返せばいいんだ? 

人生を趣味だけで埋め尽くしていたわたしは、男性経験ゼロであった。
日々、甘さを増してゆくカウルに戸惑う。

そういえば、元々リアは婚約者だったんだっけ。


「他に痛いところはないか? ああ、手も豆だらけだな」


手のひらにふわりと唇の感触がして、わたしは「ふおー」と悲鳴をあげた。


「総長! 薬と水もってきやしたーっ!」

フリスビー犬のように嬉しそうに息を切らして、ロットが駆け込んできた。

「ああ、助かった、そこに置いたら下がっていい」

「りょーかいっす!」